

セメントミルクの配合を現場判断で変えると、壁体強度が設計値の60%以下になるケースがあります。
SMW工法(Soil Mixing Wall)は、地中に特殊な多軸オーガーを用いてセメント系固化材を原位置の土と混合・攪拌し、連続した地中壁を構築する工法です。1970年代に日本で開発され、現在では都市部の山留め壁や止水壁として広く採用されています。
一般的な土留め工法であるシートパイル工法や場所打ちコンクリート壁工法と比べると、SMW工法は原位置土を利用するため建設廃棄物の発生量が大幅に少ないという特徴があります。環境負荷が低いということですね。
また、SMW工法は適用地盤が幅広く、粘性土から砂質土、礫質土まで対応できます。ただし、玉石混じりの地盤や非常に硬質な岩盤では適用が困難になるケースがあるため、事前の地盤調査が欠かせません。
他工法との大きな違いとして、壁体そのものがセメント改良体であり、H形鋼などの芯材を組み合わせることで曲げ剛性を確保している点があります。つまり、芯材の配置計画が壁体性能の核心です。
シートパイルは打設時の騒音・振動が課題になりますが、SMW工法は比較的低騒音・低振動で施工できるため、市街地や既存建物近接工事での採用実績が多くあります。近隣対応コストを抑えられる点も、現場担当者にとって大きなメリットと言えるでしょう。
| 工法名 | 壁体材料 | 騒音・振動 | 廃棄物 | 適用深度の目安 |
|---|---|---|---|---|
| SMW工法 | セメント改良体+H形鋼 | 低~中 | 少ない | ~30m程度 |
| シートパイル | 鋼矢板 | 高い | ほぼなし | ~15m程度 |
| 場所打ちコンクリート壁 | 鉄筋コンクリート | 中 | 泥土が多い | ~50m程度 |
施工手順の第一段階は、多軸オーガー機による削孔と攪拌です。一般的な三軸オーガー機を使用する場合、隣接する削孔列を半ピッチずつオーバーラップさせながら連続壁を形成します。これが基本です。
削孔速度は地盤の硬さによって調整が必要で、目安としては1m/分前後が標準的ですが、礫層では0.3〜0.5m/分程度まで落とさないと攪拌不良が生じやすくなります。攪拌不良は壁体に「未固化ゾーン」を生む原因になるため、深刻な止水不良につながります。
削孔の際はセメントミルクを注入しながら掘り進めていく「掘削注入方式」と、所定深度まで掘削してから引き上げながら注入する「引き上げ注入方式」があります。現場条件と設計意図に応じた選択が必要です。
オーガー機の引き上げ速度も管理項目の一つです。引き上げが速すぎると、せっかく注入したセメントミルクが地表近くに偏ってしまい、深部での固化強度が著しく低下するリスクがあります。意外ですね。
攪拌翼の回転数と引き上げ速度の積(翼先端の総移動距離)を「攪拌量」として管理し、施工記録に残すことが品質確保の基本です。この数値は後述する品質確認試験とあわせて記録・保管する必要があります。
SMW工法の品質を決定づける最大の要因が、セメント系固化材の配合設計です。配合が適切でないと、壁体の設計強度(一般に一軸圧縮強度 qu≧200kN/㎡が目安)を達成できません。配合管理が核心です。
使用するセメントは普通ポルトランドセメントが標準ですが、高有機質土や腐植土では六価クロムの溶出リスクがあるため、六価クロム溶出量試験の実施が推奨されています。特に住宅密集地の掘削工事では、近隣への環境影響も考慮に入れる必要があります。
水セメント比(W/C)は地盤条件によって60〜120%の範囲で設定されることが多く、固化材の添加量は一般に原位置土1㎥あたり150〜300kgが標準的な範囲です。
注入管理では、流量計と積算計を設置して注入量を連続記録することが一般的です。ミルクプラントの計量精度は±3%以内に管理するのが業界標準とされており、これを超えた誤差が続く場合はプラントの校正を行う必要があります。これは必須です。
また、配合変更が必要になった場合、現場判断で独断変更することはリスクが高く、設計者・監理者への確認と変更記録の作成が不可欠です。変更履歴が残っていないと、後に瑕疵担保や損害賠償の問題が生じたとき、施工者側に不利な状況になりかねません。
参考として、国土交通省の「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(建設リサイクル法)」および地盤改良に関する基準類は、以下のリンクから確認できます。
地盤改良工事における環境影響(六価クロム溶出等)の調査・試験方法に関する指針(国土交通省):
https://www.mlit.go.jp/tec/sekisan/seisaku/kentoukai/index.html
削孔・攪拌が完了したら、次のステップは芯材となるH形鋼の建込みです。H形鋼は改良体がゲル化する前に挿入する必要があり、攪拌完了から建込み完了までの時間管理が非常に重要になります。
一般にセメントミルクの可使時間(ポットライフ)は気温20℃環境下で3〜5時間程度ですが、夏季の高温時には1〜2時間程度に短縮されることがあります。これは現場でよく見落とされるポイントです。夏場の施工計画では、1ロットあたりの施工量を絞り、芯材建込みのタイミングを前倒しで組むことが重要です。
H形鋼の建込み精度の基準としては、鉛直精度1/100以内(深さ10mなら上端のズレが10cm以内)が一般的な管理値として使われます。はがきの短辺(10cm)以内のズレに収めるイメージです。
建込みの際は自重沈設が基本ですが、地盤が固い場合や深度が深い場合には振動機や圧入機を補助的に使用するケースもあります。その場合は改良体を傷つけないように配慮した施工計画が必要です。
芯材の位置管理には、心出しガイドを使用することが標準的です。ガイドがない状態での目視建込みは精度が確保しにくく、隣接する芯材との間隔が設計値から外れる原因になります。
建込み後の記録については、芯材番号・建込み深度・建込み時刻・施工機械番号を施工記録表に記載し、写真記録と合わせて保管することが求められます。これらの記録は竣工検査だけでなく、将来の改修・解体工事時にも参照される重要な資料です。記録管理に注意すれば大丈夫です。
SMW工法の施工後に実施する品質確認試験の中心は、改良体のコア採取による一軸圧縮試験です。設計強度の確認だけでなく、施工の均一性を評価するためにも不可欠な工程です。
コア採取の頻度については、施工規模や設計条件によって異なりますが、一般的には施工延長50〜100mに1箇所程度の頻度で実施されることが多いです。採取したコアは標準養生(20℃・水中)で28日養生後に試験を行うのが原則ですが、工期の都合で7日強度や14日強度を管理値として設定し、28日換算で推定する方法も使われます。
一軸圧縮強度の目標値は設計条件によって異なりますが、山留め壁として使用する場合、qu≧200〜400kN/㎡程度が設定されるケースが多いです。東京都内の都市型工事では、近接構造物への影響を考慮してより高強度な配合が採用されることもあります。
施工記録の保管については、建設業法および各発注機関の規定に従う必要があります。公共工事の場合、竣工後10年間の記録保管を求めるケースが多く、電子データでの保管も認められています。記録期間には期限があります。
近年は施工管理アプリ(例:コンクリート管理に特化した「e-コアラ」や汎用的な施工管理ツール「フォトラクション」など)を使って、現場写真・試験結果・施工記録を一元管理する事例も増えています。導入を検討する際は、発注者が求める書類フォーマットへの対応可否を確認することが先決です。
品質記録の整備は手間に感じる場面もありますが、施工不具合が発覚した際に「適切な管理を行っていた証拠」として機能します。これが施工者を守る最大の武器になり得る点は、見逃せないポイントです。
地盤改良工事の品質管理に関する標準仕様・管理基準については、以下も参考になります。
日本建築学会「建築工事標準仕様書・同解説 JASS 4 土工事および山留め工事」:
https://www.aij.or.jp/jpn/publish/list.htm
現場での施工経験が豊富な担当者でも、SMW工法特有のリスクを見落とすことがあります。その一つが「改良体の硬化収縮による目地開き」です。
セメント系固化材は硬化過程で若干の収縮が生じます。特に高セメント量の配合や気温変化が激しい季節には、隣接する改良体の接合部(オーバーラップ部)に微細なクラックや目地開きが発生することがあり、止水機能の低下につながります。これは施工後しばらく経ってから顕在化するケースもあり、事前に把握している担当者は少ない傾向があります。
もう一つ見落とされがちなのが、H形鋼の引抜き作業時のリスクです。SMW工法の仮設山留めでは、地下躯体完成後にH形鋼を引き抜いて撤去しますが、この際に引抜き抵抗が設計値を大幅に超えるケースがあります。改良体の実際の強度が設計を上回っていたり、H形鋼表面の潤滑剤(グリースなど)の塗布が不十分だったりすることが原因です。
また、近年問題になっているのが施工機械の老朽化に伴う攪拌翼の摩耗です。摩耗が進んだ攪拌翼は、設計通りの攪拌径や攪拌エネルギーを発揮できないため、壁体の連続性が損なわれるリスクがあります。施工前に翼径の実測確認を行う習慣を持つことで、このリスクを低減できます。
現場担当者が施工前に行うべきチェックリストとして、以下を参考にしてください。
これらを着工前に一通り確認しておくだけで、施工中のトラブル件数を大きく減らせた事例は複数報告されています。これは使えそうです。
SMW工法は正しく施工すれば非常に信頼性の高い工法ですが、管理を怠ると止水不良・強度不足・近接被害といった大きなコストリスクに発展します。手順と記録の徹底が、現場担当者を守る確実な盾になります。