

ANSIフランジとJISフランジは「見た目が似ているだけ」で、実は内径が最大0.6mm以上違い、そのまま混用すると漏れ事故につながります。
ANSI規格フランジとは、米国規格協会(American National Standards Institute)とアメリカ機械学会(ASME)が共同で制定した「ANSI/ASME B16.5」に基づく配管用フランジです。正式名称としては「ASME B16.5フランジ」と呼ばれることも多く、現場では慣習的に「ANSIフランジ」と呼ばれています。
この規格は呼び径1/2インチ(約15mm)から24インチ(約600mm)まで適用され、さらに大口径向けにはASME B16.47(26〜60インチ)が存在します。建築設備分野でも、海外製の機器や輸入配管材との接続において必ずと言っていいほど登場します。
ANSIフランジ最大の特徴が「圧力クラス(Pressure Class)」という考え方です。クラスは以下の7段階に分かれています。
| 圧力クラス | 目安最高使用圧力(常温・炭素鋼) | 主な用途例 |
|---|---|---|
| Class 150 | 約1.96 MPa(20 kgf/cm²) | 建築設備・一般産業配管 |
| Class 300 | 約5.18 MPa(52.8 kgf/cm²) | 中圧蒸気・化学プラント |
| Class 400 | 約6.77 MPa | 特殊プロセス配管 |
| Class 600 | 約10.20 MPa | 高圧プロセス・石油精製 |
| Class 900 | 約15.33 MPa | 高圧ガス・石化プラント |
| Class 1500 | 約25.51 MPa | 超高圧設備 |
| Class 2500 | 約42.55 MPa | 極高圧特殊設備 |
この圧力クラスの数値はヤード・ポンド系の単位「psi(ポンド毎平方インチ)」を表しており、Class 150は常温での最大圧力が約285 psi(≒2.0 MPa)に相当します。クラスが大きいほど肉厚や外径が大きくなり、重量も増します。
ここで重要なのが「クラスの数値=最高使用圧力(psi)ではない」という点です。これが誤解されがちです。圧力クラスはあくまでも規格上の分類番号であり、実際の最高使用圧力はフランジ材質と流体温度によって変動します。温度が上がるほど許容圧力は下がるため、施工前に必ず圧力-温度基準(P-T Rating)を参照する必要があります。
Class 150が条件です。建築設備における一般的な給水・空調配管ではClass 150が最もよく採用されます。
建築業に携わる方なら、日常的に「JIS 10Kフランジ」を扱っている方が多いでしょう。ANSIフランジとJISフランジは外見が似ているため、現場では「同じようなもの」と認識されがちです。しかし実際には互換性はなく、混用は漏洩事故に直結します。
まず呼び圧力の体系が根本的に異なります。JISフランジは「○Kフランジ」という単位(kgf/cm²)を使い、5K・10K・16K・20K・30K・40K・63Kという区分があります。ANSIフランジはClass(psi)表記です。「JIS 10K」と「ANSI Class 150」は圧力帯が近いですが、フランジそのものの寸法は同一ではありません。
もっとも現場で問題になりやすいのが「配管外径の差」です。JIS規格の25A配管(呼び径25mm)の外径は34.0mmですが、ANSI規格の1B配管(呼び径1インチ)の外径は33.4mm、差にして0.6mmあります。この差はわずかに見えますが、フランジ内径に影響するため、ANSIフランジにJIS配管を差し込んでも適切なフィット感が得られず、溶接品質や気密性が損なわれます。
次に、ANSIフランジとJPIフランジの関係です。JPIフランジ(日本石油学会規格)はANSIフランジを参考に制定されたため、外形寸法の多くが共通しています。つまりJPIはANSIのコピーに近い規格です。
しかし外観がほぼ同じでも、決定的な違いが1点あります。ANSIフランジのガスケット座面には「セレーション」という溝加工が施されていますが、JPIフランジには原則としてセレーションがありません。セレーションとは1インチあたり45〜55本という細かい渦巻き状(スパイラル)または同心円状(コンセントリック)の溝加工のことで、ガスケットのシール性と安定装着を高める目的で施されます。
セレーションがあるANSIフランジには、セレーション対応ガスケットを選ぶ必要があります。JPIフランジ用ガスケットをANSIフランジに流用すると、座面の引っかかりが不十分になりガスケット切れや漏洩のリスクが上がります。見た目ではほぼ判別できないため、刻印されている規格名をよく確認することが大切です。
規格の刻印確認が原則です。フランジの外周側面には通常、製造者名・材料グレード・圧力クラス・規格番号が刻印されているため、受入時に必ず目視確認しましょう。
フランジ規格の詳細な寸法比較は以下のページが参考になります。
フランジ規格|JIS・ANSI・JPI等の寸法一覧 - 配管・パイプnote
ANSIフランジにはいくつかの「接続形状」があり、それぞれ施工条件や流体の特性に合わせて使い分けます。形状を誤ると施工後に強度や気密性が不足し、やり直しコストが発生します。
① ウェルドネックフランジ(WN)
長いテーパー付きのネック部分を持ち、管との突合せ溶接によって接続します。開先加工が必要ですが、溶接部の内面が滑らかに仕上がり、熱応力・振動・高圧に対して最も信頼性が高い構造です。高温高圧配管や石油化学プラントで多用されます。高圧系配管ならWNが基本です。
② スリップオンフランジ(SO)
フランジ内穴に管を差し込み、フランジの上面外側と内径部の2か所を隅肉溶接します。開先加工が不要で施工が容易なため汎用品として流通しており、コストも比較的安価です。ただし溶接強度は低いため、高温高圧配管には使用できません。一般的な建築設備(給水・空調配管など)では広く採用されています。
③ ソケットウェルドフランジ(SW)
フランジに胴付部(段差)を設けて管を差し込み、フランジ上面外側の1か所だけを隅肉溶接します。溶接ビードがシール面を傷つけにくい利点がありますが、溶接箇所が1点なので高温高圧には不適です。主に小口径(50A以下)の配管に使われます。
④ ねじ込みフランジ(TR)
フランジ内径のテーパめねじに、管のテーパおねじをねじ込む形式です。溶接が一切不要なので火気を使えない場所でも施工でき、コストも下がります。一方で漏洩リスクが比較的高く、危険物・高圧ガス配管では法的に制限される場合があります。低圧の小径配管向けの形式です。
⑤ ラップジョイントフランジ(LJ)
「スタブエンド」と呼ばれる継手と組み合わせて使用します。スタブエンドのつば部分にフランジを引っかける構造で、フランジ自体は溶接されないため、ボルト穴の位置を自由に調整できます。溶接できない材料の管との接合や、低圧低温の流体配管に用いられます。
以下の表に接続形状の選定基準をまとめます。
| 記号 | 接続形状 | 溶接 | 高温高圧 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| WN | ウェルドネック | 突合せ溶接 | ◎ | 高圧蒸気・石化プラント |
| SO | スリップオン | 隅肉2箇所 | △ | 一般建築設備・低中圧配管 |
| SW | ソケットウェルド | 隅肉1箇所 | △ | 小口径低中圧配管 |
| TR | ねじ込み | 不要 | × | 小径・低圧・火気使用不可現場 |
| LJ | ラップジョイント | スタブエンドのみ | × | 低圧・ボルト穴位置調整が必要な場所 |
これは使えそうです。接続形状の一覧を手元に置いておくだけで、現場での選定ミスをかなり防げます。
フランジ同士が合わさる「座面(ガスケット面)」にも複数の種類があり、それぞれ略記号が定められています。フランジの仕様書や発注書では「JPI150lb SORF」「ANSI Class300 WNRF」のように、接続形状と座面形状を組み合わせて表記します。座面の選択を誤ると適切なガスケットが選べず、シール性能が確保できません。
RF(Raised Face:平面座)
座面の中央部分が周囲より高く盛り上がった形状です。突起部分がガスケットを均一に圧縮するため、FFより高い圧力に対応でき、ANSIフランジで最もよく使われる座面形状です。Class 150〜Class 2500のほぼすべての配管で採用されています。RFが最も一般的な選択肢です。
FF(Flat Face:全面座)
フランジ面全体が同一平面であり、座面全体でガスケットを押さえます。面圧が小さいため、水や空気など漏れても危険のない流体の低圧配管に適しています。鋳鉄製フランジとの組み合わせでよく登場します。
MF(Male-Female:はめ込み形)
雄側(凸)と雌側(凹)がペアになっています。ガスケットのズレが起きにくく、心出し精度が高まる利点がある反面、必ず同じ規格の対の製品を揃える必要があります。
TG(Tongue and Groove:溝形)
タング(凸)とグルーブ(溝)が噛み合う構造で、ガスケット受圧面が小さく面圧を高く取れます。機密性を要求される高圧配管や真空配管に適しています。厳しい用途に必須の形状です。
RJ(Ring Joint:リングジョイント形)
座面に彫られた溝に金属製リングガスケットをはめ込む形式です。金属同士の線接触によって極めて高いシール性を発揮し、高温高圧の石油・ガス配管に用いられます。ゴムや樹脂製ガスケットが使えない環境でも対応可能です。
各ガスケット座面とガスケットの選定については以下のページが詳しくまとまっています。
配管フランジの基礎知識:規格・接続方式・ガスケット座の種類 - 日本アイアール株式会社
「Class 150なら安心」と思って施工したのに、流体温度が変わっただけで許容圧力が半分以下になる——これがANSIフランジ選定で最も見落とされやすいポイントです。
ANSIフランジの圧力クラスは「常温(約38℃)における最高使用圧力」を基準に定められています。しかし実際の配管では、蒸気・温水・高温流体を扱う際に流体温度が200℃・300℃と上昇することがあります。この場合、同じClass 150のフランジでも使用できる最高圧力が大きく下がります。
ASME B16.5に定める炭素鋼(グループ1.1材料、ASTM A105等)では、例として以下のような変化があります。
| 流体温度 | Class 150 許容圧力 | Class 300 許容圧力 |
|---|---|---|
| -29℃〜38℃(常温) | 約1.96 MPa | 約5.18 MPa |
| 100℃ | 約1.82 MPa | 約4.78 MPa |
| 200℃ | 約1.48 MPa | 約3.93 MPa |
| 300℃ | 約1.38 MPa | 約3.65 MPa |
| 400℃ | 約0.79 MPa | 約2.10 MPa |
常温と400℃を比べると、Class 150の許容圧力は約1.96 MPaから0.79 MPaへと、6割近く低下します。つまり「圧力は問題ないから」とClass 150を選んでも、流体温度が高い系統に使うと圧力条件を満たせなくなります。
この落とし穴は特に、既設のJIS 10Kフランジ系統に隣接して海外製機器を接続するケースで問題になります。JIS 10Kで設計した系統の圧力・温度条件を「そのままANSI Class 150で代替できる」と判断すると危険なのです。設計時は必ずASME B16.5規格のP-T Rating表を確認する必要があります。
温度条件の確認が条件です。フランジ選定では圧力クラスの数字だけでなく、設計温度を必ずセットで確認してください。
選定作業を補助するツールとして、ASME B16.5のP-T Ratingを参照できる以下のサイトが便利です。
ASME/ANSI B16.5 Flanges and Bolt Dimensions - Engineering ToolBox(英語)
また、ANSIフランジのクラス表記と実際の最高使用圧力の関係は以下のページでも解説されています。
クラス300フランジとクラス600フランジの違い - Seather Technology(日本語)
実務では設計温度と設計圧力を施工図に明記し、フランジメーカーに確認を依頼するのが最も確実な対策です。フランジ単品だけでなく、ガスケットやボルト・ナットの材質も同じ温度・圧力条件を満たすものを選ぶ必要があります。3点セットで揃えることが鉄則です。