
押出法ポリスチレンフォーム断熱材(XPS)は、ポリスチレン樹脂を加熱溶融し、発泡剤と難燃剤を添加して押出成形により製造される高性能断熱材です。この製造方法により、均一で微細な気泡構造を持つ板状の断熱材が完成し、優れた断熱性能を発揮します。
主要なメリットは以下の通りです。
代表的な製品として、ダウ社の「スタイロフォーム」やカネカ社の「カネライトフォーム」があり、これらはJIS A 9511「発泡プラスチック保温材」の規格に適合した信頼性の高い製品です。
押出法ポリスチレンフォーム断熱材は、断熱性能によって1種、2種、3種に分類され、数字が大きいほど高性能となります。
種類 | 熱伝導率(W/m・K) | 主な用途 | 特徴 |
---|---|---|---|
1種 | 0.040 | 一般建築用 | 標準的な断熱性能 |
2種 | 0.034 | 高断熱仕様 | バランスの取れた性能 |
3種 | 0.028 | 最高断熱仕様 | 最高レベルの断熱性能 |
最新技術では、カネカ社が開発した高性能タイプでは熱伝導率0.024W/(m・K)を達成し、従来の3種bに対して15%の断熱性能向上を実現しています。これにより、同じ断熱性能を得るのに必要な厚みを削減でき、設計の自由度が向上します。
他の断熱材との比較では、ビーズ法ポリスチレンフォーム(EPS)と同じポリスチレン原料を使用していますが、製造方法の違いにより、押出法の方が気泡が細かく均一で、より高い断熱性能を発揮します。硬質ウレタンフォームと比較すると、耐水性に優れる一方で、断熱性能はウレタンフォームの方がやや高い傾向にあります。
押出法ポリスチレンフォーム断熱材の施工は、主に外張り断熱工法で行われ、建物の外側から断熱・気密施工を実施します。
基礎断熱施工では、同時打込みを標準とし、基礎最下部から天端まで連続して施工します。接着剤には一液・無溶剤型変性シリコーン樹脂系接着剤を使用し、セメダイン PM525、ボンド KMP10S、タイルメント MS-850などが推奨されています。
床断熱施工では、根太間に専用の受け金具(WZピン、オメガピン、フィットピンなど)を取り付け、断熱材を隙間なく連続配置します。気密措置として構造用合板の継目に気密テープを貼り、外壁と床の取り合い部でも気密を確保します。
重要な注意点。
現場での加工時は、真夏の高温により材料が変形する可能性があるため、適切な保管と迅速な施工が重要です。
押出法ポリスチレンフォーム断熱材には、いくつかのデメリットが存在するため、適切な対策が必要です。
主要なデメリット。
効果的な対策方法。
特にシロアリ対策は重要で、地域の生息状況に応じた適切な防蟻工法の選定が不可欠です。最近では、ホウ酸系防蟻剤を練り込んだ防蟻タイプの押出法ポリスチレンフォームも開発されており、より安心して使用できる環境が整っています。
押出法ポリスチレンフォーム断熱材の技術革新は、環境配慮と性能向上の両面で進展しています。
環境配慮技術では、発泡剤としてフロンガスを使用しない製品が標準となり、地球温暖化係数(GWP)の低い発泡剤への転換が完了しています。また、ホルムアルデヒドを発散しない「告示対象外」の断熱材として、室内空気環境への配慮も実現されています。
性能向上技術では、ナノテクノロジーを活用した超微細気泡構造の開発により、従来品を上回る断熱性能を実現する製品が登場しています。カネカ社の高性能タイプでは、熱伝導率0.024W/(m・K)を達成し、必要厚みの削減を可能にしています。
施工技術の進歩では、専用接着剤の改良により施工性が向上し、気密性能の確保がより確実になっています。また、BIM(Building Information Modeling)との連携により、設計段階での熱橋解析や断熱性能シミュレーションが精密化されています。
将来展望として、AI技術を活用した最適厚み設計システムや、IoTセンサーによる断熱性能の長期モニタリングシステムの開発が進んでいます。これらの技術により、建物のライフサイクル全体を通じた断熱性能の最適化が実現される見込みです。
さらに、リサイクル技術の向上により、建物解体時の断熱材回収・再利用システムの構築も進行中で、サーキュラーエコノミーの実現に向けた取り組みが加速しています。これらの技術革新により、押出法ポリスチレンフォーム断熱材は今後もより高性能で環境に優しい建材として発展していくことが期待されます。