
600vビニル絶縁電線は、日本国内の建築現場で最も普及している低圧配線用の電線です。JIS C 3307(IV)、JIS C 3340(屋外用)、JIS C 3316(KIV)などの規格に基づいて製造され、600V以下の一般電気工作物や電気機器用配線に広く使用されています。
参考)電線・ケーブルの種類と特性
これらの電線は、導体である銅線をポリ塩化ビニル(PVC)で絶縁した構造を持ち、用途や環境条件に応じて複数の種類が存在します。最も基本となるIV電線をはじめ、耐熱性を向上させたHIV電線、柔軟性を重視したKIV電線など、それぞれに明確な特性の違いがあります。
参考)IV電線見積り比較サイト|橋本興産株式会社
IV電線(Indoor PVC)は、屋内配線用のビニル絶縁電線として最も広く普及している基本的な電線です。導体最高許容温度は60℃、周囲温度30℃における許容電流は、例えば2.0mm²で27A、5.5mm²で49A、14mm²で88Aとなっています。
参考)電線・ケーブルの許容電流
単線とより線の2種類があり、被覆の厚みは導体の太さに応じて0.8mmから2.8mmまで変化します。被覆色は黒・白・赤・緑・黄・青の6色が標準で、黒と赤を電源線、緑を接地線、白を中性線として使用するのが一般的です。
参考)製品一覧|菅波電線株式会社
IV電線は照明器具、スイッチ、コンセントへの渡り配線、接地用電線、盤内配線など幅広い用途に使用されます。ただし、シース(外皮)で保護されていないため、電線管を通して施工するのが基本となります。
参考)配電用電線・ケーブル
より線の素線構成は、例えば1.25mm²の場合、0.45mmの素線を7本撚り合わせた構造(7/0.45)となっており、KIV電線と比較すると太い素線を使用しているため曲げにくさがあります。
参考)KIV・IV電線の概要・用途と許容電流
HIV電線(Heat-resistant Indoor PVC)は、二種ビニル絶縁電線とも呼ばれ、IV電線よりも高い耐熱性能を持つ絶縁電線です。最高許容温度は75℃で、IV電線の60℃と比較して15℃高く設定されています。
参考)HIVケーブルの概要・用途と許容電流
この耐熱性の向上により、許容電流はIV電線よりも約20%大きく取ることができます。例えば、同じ断面積でもHIV電線の方が大きな電流を流すことが可能で、周囲温度が比較的高い場所でも安定した送電を行えます。
HIV電線は、耐熱使用が求められる盤内配線、防火設備への電源供給、周囲温度が高い環境下での配線などに使用されます。外観や被覆色はIV電線と同様で、施工方法も電線管を通すのが基本となります。
参考)盤内の制御回路配線 IV線・KIV線・HIV線の違い - 電…
さらに高温環境向けには、最高許容温度105℃のSHIV電線も存在し、より厳しい条件下での使用に対応しています。これらの耐熱電線を適切に選定することで、設備の安全性と信頼性を高めることができます。
KIV電線(電気機器用ビニル絶縁電線)は、JIS C 3316に規定される600V以下の電気機器配線用の絶縁電線です。「K」は可とう性(Flexibility)を意味し、その名の通り柔軟性に優れた構造が最大の特徴となっています。
参考)JISC3316:2008 電気機器用ビニル絶縁電線
素線構成がIV電線と大きく異なり、より細い素線を多数撚り合わせた構造を持ちます。例えば1.25mm²の場合、KIV電線は0.18mmの素線を50本撚った構成(50/0.18)であるのに対し、IV電線は0.45mmの素線を7本撚った構成(7/0.45)です。
この細かい素線構成により、KIV電線は柔らかく曲げやすく、配線作業が容易になります。特に制御盤内配線、分電盤内配線、電気機器の内部配線など、狭い空間で複雑な配線を行う場合に威力を発揮します。
参考)【電線】IV、KV、KIVの違い - ケムファク
耐油性、耐水性、耐熱性、加工性、着色性などにも優れており、環境に配慮した非鉛の塩化ビニルコンパウンドを使用しています。JIS規格品のため、各メーカーによる性能の違いがほとんどなく、安定した品質が保証されています。
600vビニル絶縁電線の許容電流は、導体の断面積、周囲温度、布設条件によって決定されます。周囲温度30℃、気中1条布設の標準条件において、IV電線の許容電流は以下のように設定されています。
参考)https://densenkan.com/densen/densen11-1/
IV電線の主要サイズ別許容電流
導体サイズ | 許容電流 | 主な用途 |
---|---|---|
1.25mm² | 19A | 照明回路、小型機器 |
2.0mm² | 27A | 一般コンセント回路 |
3.5mm² | 37A | エアコン専用回路 |
5.5mm² | 49A | 中容量機器 |
8mm² | 61A | 大型エアコン、電気温水器 |
14mm² | 88A | 幹線配線 |
22mm² | 115A | 主幹線 |
38mm² | 162A | 大容量幹線 |
参考)IV線許容電流値表 - 電線ケーブル技術資料 - 電線ケーブ…
HIV電線(二種ビニル絶縁電線)の場合、最高許容温度が75℃であるため、同じ断面積でも許容電流が約1.2倍になります。例えば2.0mm²の場合、IV電線が27Aに対してHIV電線は約33Aとなります。
電線管工事の場合は、がいし引工事と比較して放熱条件が悪化するため、標準許容電流に低減係数を乗じた値を使用します。また、周囲温度が30℃を超える場合も、温度に応じた低減率を適用する必要があります。
参考)第7章 電線・ケーブル技術資料|東北電力グループ 北日本電線
600V架橋ポリエチレン絶縁電線(CV)の場合、導体最高許容温度が90℃とさらに高く、同じサイズでもより大きな電流を流すことができます。例えば2.0mm²で38A、5.5mm²で69Aと、IV電線よりも大幅に許容電流が向上します。
600vビニル絶縁電線は、用途に応じた複数のJIS規格によって仕様が定められています。IV電線はJIS C 3307、電気機器用のKIV電線はJIS C 3316、屋外用ビニル絶縁電線(OW)はJIS C 3340として規格化されています。
参考)TERASU辞書
これらの規格では、導体の材質(軟銅線または硬銅線)、素線構成、絶縁体の厚さ、外径、耐電圧性能などが詳細に規定されています。導体には硬銅より線(JIS C 3105)や硬銅線(JIS C 3101)が使用され、引用規格として組み込まれています。
被覆色による識別体系
導体が軟銅の場合、被覆色は黒・白・赤・緑・黄・青の6色が標準です。各色の用途は以下のように定められています。
参考)絶縁電線とケーブルの種類 【通販モノタロウ】
導体が硬銅の場合は、黒・白・青の3色のみとなります。
多心ケーブルの場合、心線の識別も色分けで行われます。VVRケーブル(600Vビニル絶縁ビニルシースケーブル丸形)では、2心は黒・白、3心は黒・白・赤、4心は黒・白・赤・緑という組み合わせが標準です。
環境配慮の観点から、現在は絶縁体に鉛を含まない塩化ビニルコンパウンド(非鉛、LFV)を使用したものが主流となっており、RoHS指令にも対応しています。
フジクラ・ダイヤケーブルのIV/HIV/KIV電線カタログには、各種電線の詳細な規格仕様と技術データが掲載されています。
600vビニル絶縁電線を施工する際には、電線の特性を理解した適切な取り扱いが不可欠です。IV、HIV、KIV電線はいずれもシース(外皮)を持たない単心の絶縁電線であるため、電線管(金属管、合成樹脂管)やダクト内に収納して施工するのが基本となります。
配線工事では、電線を過度に引っ張ったり、鋭角に曲げたりすることは避けなければなりません。特に寒冷地でビニル電線を取り扱う場合、低温により被覆が硬化しているため、過激な衝撃や床にたたきつけるような行為は絶対に控える必要があります。
参考)https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/electric_electronic_design/ee02/a0153.html
接続作業においては、確実な接続が求められます。接続端子が緩いと電流が不安定になり、発熱や火災の原因となります。閉端接続子を使用する場合は、電線の絶縁体表面をサンドクロスで処理するなど、適切な前処理が必要です。
参考)https://www2.panasonic.biz/jp/catalog/lighting/products/nsl/shiyouzu/2022/03/23/2022032300220125.PDF
保管時の注意事項
電線の保管方法も性能維持に重要です。直射日光や高温多湿の場所での保管は避け、通気性のある冷暗所で保管することが理想的です。紫外線や高湿度は、ケーブルの絶縁材や外皮を劣化させる主要因となります。
参考)電気工事で不可欠!VVFケーブルの魅力と使用方法 #電気工事…
保管の際は、強く束ねることを避け、コイル状に適度な大きさで巻いて保管します。強く束ねると導体が断線したり、絶縁素材が損傷する可能性があります。専用の収納ボックスやラックを用意し、他の工具や重量物との接触を避けることも大切です。
定期的に保管状態を確認し、ひび割れや変色などの劣化がないかをチェックすることも重要です。特に長期間使用しない場合は、定期点検により早期に問題を発見し、対処することで安全性を確保できます。
日本電線工業会の「電線関係トラブル事例集 絶縁電線編」には、施工時の誤った事例と正しい方法が詳しく解説されています。
建築現場では、600vビニル絶縁電線以外にも様々な低圧ケーブルが使用されます。施工条件や用途に応じて最適な電線を選定することが、安全で効率的な電気設備の構築につながります。
参考)ケーブル電線 種類用途一覧 全32種紹介 ケーブル、電線の違…
**VVFケーブル(600Vビニル絶縁ビニルシースケーブル平型)**は、IV電線を2〜4心まとめてビニルシースで覆った構造を持ちます。シースで保護されているため、電線管なしで直接配線することができ、一般家庭から商業施設まで、照明器具やコンセント配線に最も広く使用されています。
VVFケーブルの内部電線にはIV電線が使用されており、シースによる二重の絶縁構造が特徴です。施工の容易さから住宅配線の標準となっていますが、可とう性はIV電線単体より劣るため、狭い場所での配線には不向きです。
参考)電線の『種類』について!用途などを解説! - Electri…
**CVケーブル(架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブル)**は、絶縁体に架橋ポリエチレンを使用し、導体最高許容温度が90℃と高く、許容電流も大きく取れます。幹線配線や大容量回路に適しており、VVケーブルに代わって主流となっています。
屋外配線には**OW電線(屋外用ビニル絶縁電線)**が使用されます。架空配電線として使用され、水密OW(OW-W)や難着雪OW(SN-OW)など、環境条件に応じた特殊仕様も存在します。ただし、絶縁能力がIV電線より低いため、屋内使用には適していません。
高圧回路にはKIP電線(6,600V高圧絶縁電線)が使用され、キュービクル式受電設備内や高圧盤内配線に用いられます。また、環境配慮型の**EM-EEFケーブル(エコ電線)**は、VVFと同じ構造ながら有害物質を削減し、再利用や分別のしやすさを向上させています。
参考)電力ケーブル
**PDC電線(高圧引下用架橋ポリエチレン電線)**は、高圧架空電線から柱上変圧器への引き下げ用に特化した電線で、用途に応じた専用設計がなされています。
このように、各電線・ケーブルにはそれぞれ明確な用途と特性があり、施工環境、電圧、電流容量、コストなどを総合的に考慮して選定することが重要です。IV電線は基本的な屋内配線・盤内配線に、HIV電線は耐熱が必要な箇所に、KIV電線は柔軟性が求められる機器配線に使用するという使い分けが基本となります。
パナソニックの電線・ケーブル基礎知識ページでは、各種電線の用途と特性が比較表形式で分かりやすく解説されています。