亜硫酸ナトリウムと希硫酸の化学反応式と二酸化硫黄の発生

亜硫酸ナトリウムと希硫酸の化学反応式と二酸化硫黄の発生

記事内に広告を含む場合があります。
亜硫酸ナトリウムと希硫酸の反応
⚗️
化学反応式

Na₂SO₃ + H₂SO₄ → Na₂SO₄ + H₂O + SO₂

⚠️
発生する危険

有毒な二酸化硫黄(亜硫酸ガス)が発生し、吸入すると危険

🏗️
建築・洗浄での用途

木材の漂白(アク洗い)や塩素系漂白剤の中和剤として利用

亜硫酸ナトリウムと希硫酸の化学反応式

亜硫酸ナトリウムと希硫酸の化学反応式と二酸化硫黄の発生

 

化学の基礎実験や産業廃棄物の処理現場、さらには特殊な建築洗浄の現場において、亜硫酸ナトリウム(Na₂SO₃)と希硫酸(H₂SO₄)の混合は非常に重要な化学反応を引き起こします。この2つの物質が出会うとき、単に混ざり合うだけでなく、激しい化学変化を伴い、刺激臭を持つ有毒な気体が発生します。このセクションでは、その反応の全容と生成される物質の性質について詳しく掘り下げていきます。
まず、この反応を最も簡潔に表す化学反応式は以下の通りです。
Na2SO3+H2SO4Na2SO4+H2O+SO2\text{Na}_2\text{SO}_3 + \text{H}_2\text{SO}_4 \rightarrow \text{Na}_2\text{SO}_4 + \text{H}_2\text{O} + \text{SO}_2 \uparrowNa2SO3+H2SO4→Na2SO4+H2O+SO2↑

参考)亜硫酸ナトリウムと希硫酸の化学反応式の作り方を教えてください…

この式が示しているのは、亜硫酸ナトリウム(固体または水溶液)に希硫酸を加えると、硫酸ナトリウム(Na₂SO₄)、水(H₂O)、そして二酸化硫黄(SO₂)が生成されるという事実です。ここで最も注目すべき生成物は、矢印(↑)で示されるように気体として発生する二酸化硫黄です。


  • 反応物:


    • 亜硫酸ナトリウム (Na₂SO₃): 白色の粉末状結晶で、還元作用を持ちます。写真現像液や漂白剤、食品の酸化防止剤として広く使われています。

    • 希硫酸 (H₂SO₄): 強酸性の液体。工業的に最も重要な基礎化学品の一つであり、バッテリー液や洗浄剤として利用されます。


  • 生成物:


    • 硫酸ナトリウム (Na₂SO₄): 安定した塩であり、温泉の成分(芒硝)としても知られています。

    • 二酸化硫黄 (SO₂): 亜硫酸ガスとも呼ばれる、無色で腐卵臭や燃焼した硫黄のような特異な刺激臭を持つ有毒ガスです。youtube​
      参考)【高校化学】「二酸化硫黄の製法と性質」(練習編)

この反応において、二酸化硫黄が発生することは、安全管理上極めて重要です。二酸化硫黄は空気よりも重く(比重約2.26)、換気が不十分な場所では床付近に滞留します。吸入すると呼吸器系を激しく刺激し、咳、気管支炎、最悪の場合は肺水腫を引き起こす可能性があります。そのため、この化学反応式を扱う際は、「単なる中和反応ではない」という強い認識を持つ必要があります。
職場のあんぜんサイト:二酸化硫黄(安全データシート) - 厚生労働省
このリンクには、二酸化硫黄の人体への影響、緊急時の応急処置、漏洩時の措置などが詳細に記載されており、現場管理者の必読資料です。

亜硫酸ナトリウムと希硫酸の化学反応式における弱酸の遊離

なぜ亜硫酸ナトリウムに希硫酸を加えると、これほど激しく二酸化硫黄が発生するのでしょうか。その根本的な理由は「弱酸の遊離(じゃくさんのゆうり)」と呼ばれる化学原理にあります。このメカニズムを理解することは、現場での事故防止や効率的な作業工程の構築に不可欠です。
化学の世界では、酸の強さは「水素イオン(H⁺)をどれだけ放出しやすいか」で決まります。硫酸(H₂SO₄)は非常に強い酸(強酸)であり、水溶液中でほぼ完全に電離して水素イオンを放出します。一方で、亜硫酸(H₂SO₃)は比較的弱い酸(弱酸)に分類されます。


  • 強酸: 硫酸 (H₂SO₄)、塩酸 (HCl)、硝酸 (HNO₃) など

  • 弱酸: 亜硫酸 (H₂SO₃)、炭酸 (H₂CO₃)、酢酸 (CH₃COOH) など

「弱酸の遊離」の法則は、「弱酸の塩(ここでは亜硫酸ナトリウム)に、それよりも強い酸(ここでは希硫酸)を加えると、強酸が塩になり、弱酸が元の酸の形に戻って追い出される」というものです。
参考)亜硫酸ナトリウムと希硫酸を反応させた時、遊離するしくみが分か…

この反応をイオン反応式で段階的に見てみましょう。


  1. 強酸の侵入:
    強酸である希硫酸は、大量の水素イオン(H⁺)を持っています。これが亜硫酸ナトリウム水溶液に入ると、亜硫酸イオン(SO₃²⁻)に対して強引にH⁺を押し付けます。
    SO32+2H+H2SO3\text{SO}_3^{2-} + 2\text{H}^+ \rightarrow \text{H}_2\text{SO}_3SO32−+2H+→H2SO3


  2. 弱酸の生成(一瞬):
    ここで一時的に「亜硫酸(H₂SO₃)」が生成されます。しかし、亜硫酸は非常に不安定な物質です。常温常圧の水溶液中では、そのままの形で存在し続けることが難しく、すぐに分解を始めます。


  3. ガス化と分解:
    不安定な亜硫酸は、水(H₂O)と二酸化硫黄(SO₂)に分解してしまいます。これが、私たちが目にする「ガスの発生」の正体です。
    H2SO3H2O+SO2\text{H}_2\text{SO}_3 \rightarrow \text{H}_2\text{O} + \text{SO}_2 \uparrowH2SO3→H2O+SO2↑


この一連の流れをまとめると、元々の化学反応式になります。つまり、亜硫酸ナトリウムは「潜在的に亜硫酸ガスを閉じ込めているカプセル」のようなものであり、希硫酸という「鍵」を使うことで、そのカプセルが開き、中のガスが放出されるのです。この「弱酸の遊離」は、炭酸カルシウムに塩酸をかけると二酸化炭素が出る反応と同じ原理であり、化学的に非常に普遍的な現象です。しかし、発生するガスが二酸化炭素のように比較的無害なものではなく、毒性の高い二酸化硫黄である点が、この反応の最大のリスク要因と言えます。

参考)【化学反応式】Na2SO3 + H2SO4 → Na2SO4…

亜硫酸ナトリウムと希硫酸の化学反応式の実験と毒性への対策

化学実験や現場作業でこの反応を行う場合、安全対策は最優先事項です。「少量だから大丈夫」という油断が、深刻な健康被害を招く事例は後を絶ちません。ここでは、具体的な実験・作業手順と、発生する二酸化硫黄の毒性に対する物理的な対策について解説します。
まず、この反応を意図的に起こす場合(例:二酸化硫黄の性質を調べる実験、廃液処理など)、以下の装備と環境が必須となります。


  • 必須の保護具:


    • 防毒マスク: 活性炭入りの簡易マスクではなく、国家検定に合格した亜硫酸ガス用(SO₂用)または酸性ガス用の吸収缶を装着した防毒マスクが必要です。

    • 保護メガネ(ゴーグル): ガスが目に触れると激しい痛みや炎症を引き起こします。隙間のないゴーグルタイプが推奨されます。

    • 耐酸性手袋: 希硫酸を扱うため、ゴム製やニトリル製の手袋が必要です。


  • 環境設定:


    • ドラフトチャンバー(排気装置): 実験室であればドラフト内で行います。

    • 強力な換気: 建築現場や屋外の場合、風向きを考慮し、作業者が風下に立たないようにします。閉鎖空間(地下ピットやタンク内)では絶対に安易に行ってはいけません。

実験・作業の手順と観察ポイント:


  1. 亜硫酸ナトリウムの固体を試験管やビーカーに入れます。

  2. 希硫酸を駒込ピペットなどで静かに滴下します。

  3. 現象: 直ちに発泡し、無色の気体が発生します。この泡一つ一つが高濃度の二酸化硫黄です。youtube​

  4. 確認方法:


    • 臭気: マスク越しでも感じるほどの刺激臭があります(直接嗅ぐのは厳禁)。

    • 赤色リトマス紙: 湿らせた青色リトマス紙を近づけると、赤変します(酸性)。

    • 脱色作用: 赤インクなどを染み込ませた紙を近づけると、色が抜けて白くなります(還元漂白作用)。

毒性への緊急対応:
もし作業中に「喉が焼けるような痛み」「息苦しさ」「目の痛み」を感じた場合は、直ちに反応を停止し(大量の水で希釈するなど)、新鮮な空気のある場所に避難してください。二酸化硫黄は水に溶けやすい性質(水に溶けて亜硫酸になる)があるため、目の洗浄やうがいは一定の効果がありますが、吸入による肺へのダメージは深刻になることがあります。
職場のあんぜんサイト:硫酸(安全データシート) - 厚生労働省
希硫酸自体の取り扱いについても、皮膚腐食性があるため、こちらのSDSを参照し、適切な保護具の選定を行ってください。

亜硫酸ナトリウムと希硫酸の化学反応式から見る漂白の現場利用

ここからは視点を変え、化学の教科書にはあまり載っていない、建築・クリーニング現場(特に「洗い屋」と呼ばれる専門職)における独自視点での活用とリスクについて解説します。建築現場、特に木造建築の改修や新築の美装工事において、亜硫酸ナトリウムと酸の反応原理は「木材の漂白」や「シミ抜き」に応用されています。
参考)https://www.monotaro.com/s/q-%E6%9C%A8%E6%9D%90%E7%94%A8%20%E6%BC%82%E7%99%BD%E5%89%A4/

「アク洗い」と「中和」のプロセス:
日本の伝統的な木材洗浄技術「アク洗い」では、複数の薬品を段階的に使用します。


  1. 苛性ソーダや過酸化水素: 木材の汚れやアクを浮かせ、漂白します。

  2. 次亜塩素酸ナトリウム(塩素系): カビ取りや強力な漂白に使用されます。

  3. 亜硫酸ナトリウム等の還元剤: ここが重要です。残留した塩素成分を中和し、過剰な漂白を止めるために使用されます。また、木材に残った赤みを消す還元漂白剤としても機能します。

この工程において、亜硫酸ナトリウムの使用後に酸性の薬品(希硫酸や塩酸ベースの洗剤、シュウ酸など)を使用する、あるいはその逆の順序で混合してしまう場面が存在します。
現場特有の危険なシナリオ:
建築現場で最も恐ろしいのは、「意図せぬ混合」です。
例えば、木材のカビ取りのために次亜塩素酸ナトリウムを使用し、その中和剤として亜硫酸ナトリウムを塗布したとします。その後、木材の本来の色を取り戻すために酸性洗剤(シュウ酸や希硫酸含有の洗浄剤)をすぐに塗布してしまうと、木材の表面で今回解説している「弱酸の遊離反応」が発生します。
亜硫酸塩(残留)+酸性洗剤二酸化硫黄ガス発生\text{亜硫酸塩(残留)} + \text{酸性洗剤} \rightarrow \text{二酸化硫黄ガス発生}亜硫酸塩(残留)+酸性洗剤→二酸化硫黄ガス発生
閉鎖空間でのリスク:
実験室と異なり、浴室のリフォーム現場、床下、換気の悪い古民家の室内などでこの作業を行うと、発生した二酸化硫黄ガスが逃げ場を失います。作業者が「なんとなく酸っぱい匂いがする」と感じた時には、すでに危険な濃度に達していることがあります。
建築従事者は、以下の点を徹底する必要があります。



  • 酸性洗剤と還元系漂白剤(亜硫酸塩)の混用厳禁: 時間を空ける、水洗い(リンス)を十分に行うことが鉄則です。


  • 「混ぜるな危険」の真の意味: 塩素系と酸性だけでなく、還元系(亜硫酸塩)と酸性の組み合わせでも有毒ガスが出ることを知っておく必要があります。


日本木材保存協会:木材保存剤や処理技術に関する技術資料

木材処理における化学薬品の適切な使用方法や、保存処理の規格について詳しい情報が得られます。

亜硫酸ナトリウムと希硫酸の化学反応式と廃棄時の中和処理

最後に、この化学反応式を理解する上で欠かせない「廃棄処理」について解説します。亜硫酸ナトリウム溶液や希硫酸が余った場合、あるいは反応後の廃液を処理する場合、そのまま下水道に流すことは法律(水質汚濁防止法下水道法)で固く禁じられています。適切な中和処理を行わなければ、環境汚染だけでなく、配管内でのガス発生による事故につながる恐れがあります。
廃棄処理の基本原則:


  1. 酸化処理(亜硫酸塩の無害化):
    亜硫酸ナトリウムは還元剤であるため、そのままではCOD(化学的酸素要求量)を著しく上昇させ、環境負荷となります。一般的には、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を慎重に加えて反応させ、硫酸ナトリウム(無害な塩)の状態まで酸化させることが推奨されます(ただし、この時もpH管理を誤ると塩素ガスが出るため、専門知識が必要です)。

  2. pH調整(中和):
    希硫酸が残っている場合、あるいは反応後の溶液が酸性である場合は、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)や炭酸ナトリウム(重曹など)を加えて中和します。
    H2SO4+2NaOHNa2SO4+2H2O\text{H}_2\text{SO}_4 + 2\text{NaOH} \rightarrow \text{Na}_2\text{SO}_4 + 2\text{H}_2\text{O}H2SO4+2NaOH→Na2SO4+2H2O
    この中和反応であれば、有毒ガスは発生せず、水と塩(硫酸ナトリウム)になるだけです。

「亜硫酸ナトリウムと希硫酸」の反応を利用した処理の落とし穴:
一部の古いマニュアルや誤った知識として、「アルカリ性の亜硫酸ナトリウムと酸性の希硫酸を混ぜれば、中和して捨てられるのではないか?」と考える人がいます。しかし、記事の前半で解説した通り、この組み合わせでの中和は最悪の選択です。pHが中性になる前に、大量の二酸化硫黄ガスが発生してしまうからです。
正しい手順:


  • 別々に処理する: 亜硫酸ナトリウム廃液は酸化処理してから中和。希硫酸はアルカリで中和。

  • 反応させる場合: もし化学実験としてこの反応を行った後の廃液(酸性の亜硫酸溶液)がある場合は、ドラフト内で十分にエアレーション(空気を送り込む)を行い、溶存している二酸化硫黄ガスを追い出した後(これを脱気といいます)、水酸化ナトリウムでpHを7付近に調整してから、大量の水と共に排出する必要があります。
    参考)https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/rw/library/2020/2fy_tru_honbun.pdf

専門業者への委託:
量が多ければ、迷わず産業廃棄物処理業者に委託してください。特に高濃度の廃液を自社処理しようとすると、中和熱による突沸やガスの大量発生など、制御不能な事態に陥るリスクがあります。建築現場や工場から出る廃液は「特別管理産業廃棄物」に該当する可能性があるため、マニフェスト(産業廃棄物管理票)の交付と適切な処理委託が法的に義務付けられています。
環境省:特別管理産業廃棄物規制の概要
腐食性のある酸(pH2.0以下)や特定の有害物質を含む廃棄物の法的な取り扱いについて、正確な定義と規制内容を確認できます。

 

 


無水亜硫酸ソーダ 1kg 無水亜硫酸ナトリウム