

圧締温度が10℃を下回ると、集成材の接着強度はJAS基準を下回るケースがあります。
圧締(あっしめ)とは、木材やラミナ(ひき板)に接着剤を塗布したあと、プレス機や治具で一定の圧力をかけながら固定し、接着剤を硬化させる工程を指します。集成材やCLT(直交集成板)など、現代の木造建築に欠かせない木質構造材料は、すべてこの圧締工程によって作られています。
医療施設の建築において、木造化・木質化の動きが近年注目を集めています。一般社団法人「木を活かす建築推進協議会」が令和2年2月に発行した「木を活かした医療施設・福祉施設の手引き」によれば、医療施設の総着工床面積に占める木造の割合はわずか10%にとどまっています。教育施設や福祉施設と比べると大幅に低い水準です。
しかし、患者への癒し効果や療養環境の向上、さらにカーボンニュートラルへの貢献を背景に、クリニック・リハビリ病院・緩和ケア病棟・産科施設などでの木造・木質化は確実に広がっています。こうした流れの中で、医療施設向けの木質構造材を扱う建築業従事者にとって、圧締工程の品質管理の重要性はこれまで以上に増しています。
木造建築の構造材として使われる集成材やCLTは、圧締の条件が適切でなければ想定通りの強度が発揮されません。つまり圧締は、安全で良質な医療施設を支える土台とも言える工程です。
圧締の基本原則を押さえておきましょう。圧締工程は大きく3つの要素で管理されます。
これら3条件が揃って初めて、JAS規格を満たす接着性能が確保できます。この管理を怠ると、後述する接着不良・剥離のリスクに直結します。
参考情報として、CLT製造における接着技術の詳細(北海道立総合研究機構)を紹介します。圧締圧力・堆積時間・樹種別条件の根拠データとして活用できます。
圧締条件が不適切だと、接着不良や層間剥離が生じます。これは医療施設の建築において特に深刻な問題です。なぜなら、医療施設の木質構造材は患者・医療スタッフ・訪問者が長時間滞在する空間を支えており、構造的な欠陥は建物全体の安全性に直結するからです。
山梨県の研究機関による集成材の接着不良発生機構の分析では、主剤と架橋剤の配合比が標準より少ないと接着強度が著しく低下することが確認されています。また、北海道立総合研究機構のデータによれば、雰囲気温度が20℃を下回ると接着性能が低下し、10℃では最低でも24時間以上の圧締が必要になります。冬場の現場管理や工場搬入後の保管状態が油断できない理由がここにあります。
さらに、CLT製造において接着剤を塗布してから圧締を開始するまでの「堆積時間」が長くなると、接着剤が乾燥・劣化して接着力が落ちることも報告されています。堆積時間は10分以内が推奨されており、工程管理のタイムコントロールが品質の鍵を握っています。これは現場感覚だけでは管理しにくい部分です。
医療施設向けのCLT・集成材を選定・施工する際には、製造仕様書を確認することが原則です。具体的には以下の点を確認します。
JAS適合品の確認は数分でできます。製造業者に問い合わせる際は「JAS規格適合証明書」を求めると明確です。
構造用集成材に使われる接着剤の種類と耐久性の詳細は、北海道立総合研究機構の資料が参考になります。
医療施設に木質材料を使う場合、圧締工程で使用した接着剤からのホルムアルデヒド放散が大きな課題になります。病院やクリニックは患者が免疫低下や呼吸器疾患を抱えているケースが多く、一般住宅以上に室内空気環境への配慮が必要です。これは建築業従事者が設計・施工段階から意識すべき問題です。
建築基準法第35条の2では、ホルムアルデヒドを発散する建築材料に関する制限が定められています。建材のホルムアルデヒド放散量は等級で区分され、F☆☆☆(第二種)・F☆☆(第一種)は内装への使用面積が制限される一方、F☆☆☆☆(フォースター)は使用制限なしとなっています。医療施設の場合、内装材・接着剤はすべてF☆☆☆☆以上を選ぶのが実務上の原則です。
集成材の製造に使われる主な接着剤はレゾルシノール樹脂系(RF)と水性高分子イソシアネート系(API)の2種類です。RFはホルムアルデヒド系接着剤に分類されますが、硬化後の放散量は非常に少なく、JASや建築基準法の規定をクリアした製品が流通しています。一方、APIはホルムアルデヒドをほとんど含まないため、医療施設向けにはAPIを採用した集成材・CLTを優先検討することが多くなっています。
24時間換気の設計も忘れてはなりません。シックハウス症候群対策として建築基準法で義務づけられている24時間換気は、医療施設においても適切な換気回数(0.5回/h以上)を確保する設計が求められます。建材選定と換気設計をセットで考えることが、健康的な医療空間を実現する基本です。
なお、国土交通省によるシックハウス対策の技術基準告示は定期的に改正されており、現行版の確認が必要です。
横浜市が公開しているシックハウス対策ガイドラインは、公共建築物の発注側・施工側ともに参照すべき実務的な内容が掲載されています。
横浜市公共建築物シックハウス対策ガイドライン(2025年4月版)
医療施設の木造化は、一般建築物と比べて規制の壁が厚いのが実情です。病院・診療所は建築基準法上の「特殊建築物」に分類され、防火・耐火に関する規制が一般住宅とは異なります。設計・施工に携わる建築業従事者は、この制度的な枠組みを正確に理解しておく必要があります。
防耐火規制の主な区分は以下のとおりです。
令和7年度のCLT活用促進事業では、医療施設へのCLT採用に対して1m³あたり最大16万円の補助が用意されています(耐火・準耐火建築物等の場合)。内閣官房のCLT等利活用促進室が窓口となっており、各都道府県の医療担当部局経由での申請となります。
2025年の建築基準法改正では中層木造建築物の耐火性能基準が合理化され、5〜9階建ての木造建築がこれまでより建てやすくなりました。これは医療施設の木造化にも直結する動きです。法改正の内容は定期的にアップデートされるため、国土交通省のポータルサイトや専門誌での情報収集が欠かせません。
CLT工法を活用した補助制度の最新情報はこちらで確認できます。
令和7年度 CLTを活用した建築物への主な支援制度(内閣官房)
医療施設の木造化・木質化の効果として語られるのは「患者への癒し」が中心です。しかし実務的な観点から見落とされがちなのが、「医療スタッフや建築施工後の維持管理コスト」への影響です。これはあまり表に出てこない視点ですが、建築業従事者として施主(病院・クリニック経営者)に提案する際の強い根拠になりえます。
「木を活かした医療施設・福祉施設の手引き」(一般社団法人木を活かす建築推進協議会)によると、福祉施設・医療施設でのヒアリングにおいて、木質系床材の導入後に「ベッドからの転落や歩行中の転倒によるケガのリスクが軽減された」という複数の職員からの声が報告されています。また「立ち仕事と移動が主な業務となる職員の足腰への負担が少ない」という意見も複数寄せられました。
職員の足腰への負担が減れば、慢性的な人手不足が続く医療・介護現場での離職率の改善につながる可能性もあります。これは施主にとって長期的なコストメリットに直結する点です。建築業従事者として、患者目線だけでなく「働く人の環境改善」という観点から木造化の価値を提案できると、設計・施工提案の説得力が増します。
一方、課題もあります。木質系床材は消毒液での拭き掃除や床掃除用ポリッシャーが使えないケースがあります。また木造建築物は上下階間の遮音性が高くないため、ナースステーション周辺や診察室では遮音工法の採用が必要になることもあります。メンテナンスフリーの素材との組み合わせや適材適所の設計判断が求められます。
「それで大丈夫でしょうか?」と迷う場面では、木造医療施設の豊富な実績を持つ設計事務所や施工会社に相談するのが近道です。木を活かす建築推進協議会のウェブサイトでは、全国の医療施設・福祉施設の木造化事例が公開されており、類似規模・用途の先行事例を参照できます。
医療施設の木質化に関する研究の最新動向は、日本建築学会の資料が参考になります。
林野庁による内装木質化の効果検証事例集では、医療・福祉施設での具体的な効果データと事例が紹介されています。施主への提案資料として活用できます。