
甲種防火戸は2000年の建築基準法改正により「特定防火設備」と名称が変更されましたが、施工現場では今でも甲種防火戸と呼ばれることが多い重要な防火設備です。
基本性能仕様
甲種防火戸の最も重要な仕様は、通常の火災における火炎を1時間以上遮断する遮炎性能です。この性能は以下の条件で厳格に試験されます。
防火設備(旧乙種防火戸)の20分遮炎性能と比較すると、甲種防火戸は3倍の性能を要求される高機能な防火設備となっています。
材料仕様の基準
甲種防火戸に使用される材料は、国土交通省告示で定められた技術的基準を満たす必要があります。主な材料仕様は。
施工業者として注意すべき点は、通常のガラスは甲種防火戸には使用できないことです。防火ガラスは通常のガラスと比べて厚みがあり、重量も増加するため、取り付け時の構造計算が重要になります。
甲種防火戸の構造は、火災時の確実な閉鎖を保証するため、建築基準法で2種類のみに限定されています。
常時閉鎖型の構造仕様
常時閉鎖型甲種防火戸は、手動で開放している間のみ開いており、手を離すと自動的に閉まる構造です。
主要な構造要素。
施工時の重要ポイントは、ドアクローザーの調整です。甲種防火戸は一般的なドアより重量があるため、適切な閉鎖力の設定が必要です。閉鎖力が弱すぎると確実な閉鎖ができず、強すぎると日常使用に支障をきたします。
随時閉鎖型の構造仕様
随時閉鎖型甲種防火戸は、火災感知器と連動して自動閉鎖する高機能タイプです。
感知システムの種類。
電気工事との連携が重要で、感知器の配線、制御盤との接続、停電時のバックアップ電源の確保など、防火戸本体以外の工事調整が施工成功の鍵となります。
甲種防火戸の設置は建築基準法により明確に規定されており、施工業者は適用箇所を正確に把握する必要があります。
防火区画での設置基準
防火区画は建物内の火災拡大を防ぐ重要な区画で、甲種防火戸の主要な設置箇所です。
面積区画の適用。
竪穴区画の適用。
異種用途区画の適用。
避難階段での設置要件
避難階段は人命に直結する重要箇所で、甲種防火戸の設置基準が特に厳格です。
避難階段出入口の要件。
特別避難階段の要件。
施工時の注意点として、避難階段の甲種防火戸は避難方向(避難時に人が進む方向)に開くよう設置する必要があります。間違った方向に設置すると、緊急時の避難に支障をきたす可能性があります。
甲種防火戸として使用できる製品は、国土交通大臣の認定を受けたもののみです。施工業者は認定製品の適切な選定と確認が重要な責務となります。
耐火試験の実施基準
認定取得には厳格な耐火試験が必要で、以下の条件で実施されます。
試験条件の詳細。
この試験は一般的な建材試験よりもはるかに厳しく、通常の扉メーカーでは対応できない場合が多いため、専門メーカーの製品選定が重要です。
認定証の確認方法
施工現場では以下の認定関連書類の確認が必須です。
必要書類一覧。
認定番号は通常「国土交通大臣認定 第○○号」の形式で表示され、この番号で国土交通省のデータベースから詳細情報を確認できます。
認定範囲の注意点
甲種防火戸の認定は製品ごとに個別に行われ、以下の変更は認定範囲外となる可能性があります。
認定範囲を超える変更例。
施工業者は設計図面と認定仕様の照合を慎重に行い、疑問がある場合はメーカーに確認することが重要です。認定範囲外の施工は建築基準法違反となり、深刻な法的問題を引き起こす可能性があります。
甲種防火戸の施工は一般的な扉施工とは大きく異なる専門知識と注意が必要です。施工不良は防火性能に直結するため、細心の注意を払う必要があります。
重量対応の構造補強
甲種防火戸は一般的な扉と比較して大幅に重量が増加するため、取り付け部の構造補強が重要です。
重量増加の要因。
構造補強のポイント。
実際の施工現場では、設計段階で想定された重量を上回る場合があるため、施工前の重量確認と必要に応じた追加補強の検討が重要です。
気密性確保の施工技術
甲種防火戸の防火性能は、扉本体だけでなく開口部全体の気密性に依存します。
気密性確保の要点。
施工時の品質管理として、煙試験や風圧試験による気密性確認を行うことが推奨されます。特に随時閉鎖型の場合、わずかな気密不良でも煙の漏れが発生し、防火区画の機能が低下する可能性があります。
電気工事との連携問題
随時閉鎖型甲種防火戸では、電気工事との綿密な連携が不可欠です。
連携が必要な工事項目。
よくあるトラブル事例。
これらの問題を防ぐため、施工前の詳細な工程調整と、各工事業者との連絡体制の確立が重要です。
定期点検とメンテナンス計画
甲種防火戸は設置後の適切なメンテナンスが性能維持の鍵となります。
メンテナンス項目。
建築基準法では防火設備の定期報告が義務付けられている建物があり、施工業者は引き渡し時にメンテナンス要領を建物所有者に適切に説明する責任があります。
施工業者にとって甲種防火戸の施工は、単なる扉の取り付けではなく、建物の防火安全性に直結する重要な工事です。認定仕様の遵守、適切な施工技術の適用、関連工事との連携を通じて、確実な防火性能を確保することが求められます。