中層建築物の耐火性能基準と木造化の可能性

中層建築物の耐火性能基準と木造化の可能性

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中層建築物と耐火性能基準

中層建築物の基本情報
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定義

一般的に5階建て以上9階建て以下の建築物を指す

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現行の耐火基準

階数5以上14以内の建築物には一律2時間耐火性能が要求される

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2025年改正のポイント

階数5以上9以下の建築物の最下層は90分耐火性能で木造設計が可能に

中層建築物における現行の耐火構造規制

建築基準法における現行の耐火構造規制では、建築物の階数に応じて異なる耐火性能が求められています。具体的には以下のような基準が設けられています。

 

  • 最上階から階数4以内:1時間耐火性能
  • 最上階から階数5以上14以内:2時間耐火性能
  • 最上階から階数15以上:3時間耐火性能

この基準によると、5階建ての中層建築物と14階建ての建築物には、同じ2時間耐火性能が要求されることになります。これは建築物の規模や用途の多様性を考慮すると、必ずしも合理的とは言えない部分があります。

 

特に、中層建築物の場合、火災リスクの観点から見ると、高層建築物ほどの厳しい基準が全ての階に必要かという議論がありました。現行基準では、5階建ての建物全体に対して一律に2時間耐火性能が求められるため、木造での建築が技術的・経済的に困難になっていたのが実情です。

 

中層建築物の木造化を促進する2025年改正内容

2025年4月に施行される建築基準法の改正では、中層建築物の耐火性能基準が合理化されます。この改正の最大のポイントは、階数5以上9以下の建築物の最下層については、90分間の耐火性能があれば木造構造の建築が可能になるという点です。

 

現行法と改正法の比較は以下の通りです。

項目 現行法 改正法
階数5〜14の建築物 全階に2時間耐火性能が必要 階数5〜9の最下層は90分耐火性能で可
木造の適用 技術的・経済的に困難 木造での設計が現実的に

この改正により、中層木造建築物の設計・施工の幅が大きく広がります。特に5階建てから9階建てまでの中層建築物において、最下層を木造で設計できるようになることで、建築コストの削減や環境負荷の軽減、木材の特性を活かした空間づくりが可能になります。

 

国土交通省による建築基準法改正の詳細情報

中層建築物の木造化がもたらす施工上のメリット

中層建築物の木造化が進むことで、施工現場にはさまざまなメリットがもたらされます。具体的には以下のような利点が挙げられます。

 

  1. 工期の短縮
    • 木材は加工性が高く、現場での施工速度が向上
    • プレカット材の活用により、組立作業の効率化が可能
    • 乾式工法が主体となるため、養生期間が短縮
  2. 施工性の向上
    • 木材は軽量で扱いやすく、作業効率が向上
    • 特殊な重機が少なくて済むケースが多い
    • 現場での加工・調整が比較的容易
  3. 環境負荷の低減
    • 木材は再生可能な資源であり、カーボンニュートラル
    • 施工時のCO2排出量がRC造やS造に比べて少ない
    • 地域の木材を活用することで、輸送による環境負荷も低減
  4. 作業環境の改善
    • 木材は触感が良く、作業者の身体的負担が軽減
    • 騒音や振動が少なく、周辺環境への影響も小さい
    • 冬場の作業でも冷たさを感じにくい

これらのメリットは、施工者にとって大きな魅力となります。特に人手不足が深刻化する建設業界において、作業効率の向上や作業環境の改善は重要な課題です。中層建築物の木造化は、これらの課題解決に貢献する可能性を秘めています。

 

中層建築物の木造化における構造設計のポイント

中層建築物を木造で設計する際には、いくつかの重要なポイントがあります。特に構造設計においては、以下の点に注意が必要です。

 

1. 耐火性能の確保
90分耐火性能を満たすためには、以下の方法が考えられます。

  • 燃えしろ設計:木材が燃えても一定時間は構造耐力を保持できるよう余裕を持たせる設計
  • 耐火被覆:石膏ボードなどの不燃材料で木材を被覆する方法
  • 燃え止まり層の設置:木材の内部に燃え止まり層を設けて、燃焼の進行を抑制する

2. 構造計算上の考慮点

  • 木材の長期的な変形(クリープ)を考慮した設計
  • 接合部の剛性確保と耐久性の検討
  • 水平力に対する剛性確保(特に地震力に対して)
  • 床の剛性確保と振動対策

3. 混構造の活用
中層建築物では、木造と他の構造形式を組み合わせた混構造が有効な場合があります。

  • 低層部をRC造、上層部を木造とする
  • 耐力壁や共用部をRC造、居室部分を木造とする
  • 木造と鉄骨造を組み合わせたハイブリッド構造

4. 木質耐火部材の選定

  • 大断面集成材の活用
  • CLT(直交集成板)の活用
  • 木質ハイブリッド部材(木材と鋼材の複合部材)の検討

これらのポイントを押さえることで、安全性と経済性を両立した中層木造建築物の設計が可能になります。特に、2025年の法改正を見据えた設計においては、90分耐火性能を確保しつつ、木材の特性を最大限に活かす工夫が求められます。

 

木造建築の防耐火性に関する詳細資料

中層建築物の木造化における施工上の注意点

中層建築物を木造で施工する際には、いくつかの重要な注意点があります。これらを適切に管理することで、品質の高い建築物を安全に施工することができます。

 

1. 木材の含水率管理
中層建築物では、木材の含水率管理が特に重要です。含水率が高い木材を使用すると、乾燥過程で収縮や変形が生じ、構造体に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

  • 使用する木材の含水率を事前に確認(理想的には15%以下)
  • 現場での保管時に雨や湿気から木材を保護
  • 必要に応じて含水率計による定期的な測定
  • 特に接合部周辺の含水率管理を徹底

2. 接合部の施工精度
中層木造建築物では、接合部の施工精度が構造性能に大きく影響します。

 

  • 金物接合部の位置精度を確保
  • ボルトやドリフトピンの締め付け管理
  • 接合金物の種類や向きの間違いを防止するためのチェック体制
  • 接合部の耐火被覆の確実な施工

3. 防火区画の確実な施工
中層建築物では防火区画の施工が重要です。特に木造の場合、以下の点に注意が必要です。

 

  • 区画貫通部の適切な処理(配管・ダクト・電気配線等)
  • 防火戸や防火シャッターの取り付け精度
  • 天井裏や床下の防火区画の連続性確保
  • 防火被覆材の継ぎ目処理の徹底

4. 施工段階での防火管理
木造建築物は施工中の火災リスクが高いため、以下の対策が必要です。

 

  • 現場での火気使用管理の徹底
  • 仮設消火設備の適切な配置
  • 夜間・休日の巡回点検
  • 作業員への防火教育の実施

5. 木材の劣化対策
中層木造建築物の耐久性を確保するためには、施工段階での劣化対策が重要です。

 

  • 雨掛かりを防ぐための仮設屋根の設置
  • 木材と基礎の接触部分の防腐・防蟻処理
  • 通気層の確実な施工
  • 結露防止のための断熱・気密施工の品質管理

これらの注意点を踏まえ、計画的かつ丁寧な施工を行うことが、中層木造建築物の品質と耐久性を確保する上で不可欠です。特に、従来のRC造やS造とは異なる木造特有の施工管理ポイントを理解し、適切に対応することが求められます。

 

中層建築物の木造化が市場に与える影響と将来展望

2025年の建築基準法改正による中層建築物の木造化の促進は、建設市場に大きな影響を与えることが予想されます。ここでは、その影響と将来展望について考察します。

 

市場への影響

  1. 木材需要の増加
    • 中層建築物への木材利用拡大により、国産木材の需要が増加
    • 大断面集成材やCLTなどの高度な木質材料の市場拡大
    • 地域の林業・木材産業の活性化
  2. 技術者需要の変化
    • 木造中層建築物の設計・施工技術を持つ専門家の需要増加
    • 木造と他構造のハイブリッド設計ができる技術者の価値向上
    • 木造特有の施工技術を持つ職人の重要性増大
  3. コスト構造の変化
    • 木造化による工期短縮がもたらすコスト削減効果
    • 木材価格の変動が建設コストに与える影響の増大
    • 初期コストと長期的なメンテナンスコストのバランス再考

将来展望

  1. 技術革新の加速
    • 木質耐火部材の開発・改良の進展
    • 木造建築向けのデジタル設計・施工技術の発展
    • 木材と他素材を組み合わせた新たな複合材料の開発
  2. 環境価値の向上
    • 木造建築物のカーボンニュートラル性による環境価値の認識向上
    • ESG投資の観点からの木造建築物の評価向上
    • 木材利用によるSDGs達成への貢献
  3. 新たな建築表現の可能性
    • 木の温かみを活かした中層建築物の増加
    • 木造ならではの柔軟な空間設計の広がり
    • 地域の木材を活かした個性的な建築デザインの展開
  4. 国際競争力の強化
    • 日本の木造技術の国際的な評価向上
    • 木造中層建築のノウハウ輸出の可能性
    • 海外の木造建築技術との交流・融合による新たな発展

中層建築物の木造化は、単なる構造形式の選択肢の拡大にとどまらず、建設業界全体のパラダイムシフトをもたらす可能性を秘めています。特に、環境問題への関心が高まる中、木材という再生可能な資源を活用した建築の価値は今後さらに高まることが予想されます。

 

施工者としては、この変化を先取りし、木造中層建築物の設計・施工技術を積極的に習得することが、将来的な競争力の維持・向上につながるでしょう。また、木造特有の品質管理や施工技術の確立も重要な課題となります。

 

中大規模木造建築に関する講習会・見学会情報
中層建築物の木造化は、建設業界に新たな可能性をもたらす重要な転換点となるでしょう。この変化を好機と捉え、積極的に対応していくことが、これからの建設業界で求められる姿勢と言えるでしょう。