
エクセルシオールとは、米国で一般的に使われる木毛(ウッドウール)の呼称です。日本では主に「木毛」と呼ばれ、これを原料とした建材が「木毛セメント板」です。木毛セメント板は、丸太から削り出した糸状の木毛をセメントと混練し、圧縮・成型した建築用ボードです。
木毛セメント板は、JIS規格によって以下の3種類に分類されています。
これらの木毛セメント板は、いずれも木質原料の最大長さが450mm以下の規格になっています。「かさ密度」とは、一定容積の容器に粉体を目一杯充填したときの密度のことで、この値が大きいほど製品の強度が増します。
木毛セメント板の独特な特徴は、その表面に現れる木毛の模様と質感です。一見するとコンクリート打ちっぱなしの質感に見えますが、表面に凹凸があり、木材にもクロスにもない独特の風合いが魅力です。この特徴を活かして、意匠性を重視した内装材としても使用されています。
価格帯は、種類や厚みによって異なりますが、一般的に910mm×1820mm(3×6サイズ)の一枚あたり約1,500〜6,000円程度となっています。これは、普通木毛セメント板が比較的安価で、硬質木毛セメント板が高価な傾向があります。
木毛セメント板の製造は、環境に配慮した持続可能なプロセスで行われています。主な原材料は木材とセメントのみというシンプルな構成ですが、その製造工程は緻密で計算されたものです。
原材料の準備:
木毛セメント板の主原料は以下の通りです。
木材の選定は重要で、蒸気冷却パッドとしてはヤマナラシが主に用いられます。また、木毛セメント板の製造には、間伐材・未利用材及び製材残材等が積極的に活用されており、森林資源の有効利用に貢献しています。
製造工程のステップ:
丸太を専用の裁断機で細長いリボン状に削り出します。この工程で作られる木毛が「エクセルシオール」と呼ばれるものです。
削り出された木毛は、必要に応じて塵を取り除くための洗浄工程を経ます。英国のような規格を満たすための乾燥工程が含まれる地域もあります。
木毛とセメント、水を適切な比率で混合します。木毛セメント板の場合、一般的な混合比は重量比で木毛40%、ポルトランドセメント60%程度です。
混合物を型に入れ、圧縮して板状に成形します。この時、適切な圧力をかけることで所定の密度と強度を確保します。
セメントの硬化反応を待ちます。適切な温度と湿度の環境下で一定期間養生させることで、強度が発現します。
完全に硬化した後、乾燥させて含水率を調整します。必要に応じて、寸法調整のためのカットや表面処理が行われます。
木毛セメント板は、その製造過程でホルムアルデヒドなどの有害物質を使用しないことが特徴です。木材とセメントを主原料とするシンプルな構成であり、防腐剤などの化学物質を添加しないため、環境に配慮した建材として評価されています。
また、製造時の端材・残材等のリサイクルも積極的に推進されており、資源の有効活用の観点からも優れた製品といえます。
歴史的には、木毛(エクセルシオール)の製造機械に関する特許が1876年にすでにリスト化されており、古くから利用されてきた技術です。現代の製造技術はより効率的になりましたが、基本的な原理は変わっていません。
木毛セメント板が建築材料として高く評価される理由の一つに、優れた断熱性と調湿性能があります。これらの特性は、快適な室内環境を創出するために重要な役割を果たしています。
断熱性能:
木毛セメント板の熱伝導率は、その種類によって異なります。
熱伝導率が低いほど断熱性能が高く、普通木毛セメント板が最も優れた断熱性を持っています。この優れた断熱性能により、木毛セメント板を採用した建物では、夏は涼しく冬は暖かい快適な室内環境を維持しやすくなります。
木毛セメント板の断熱性能は、その独特な構造に起因しています。木毛が絡み合う形で作られた板内部には、多数の微細な空気層が形成されます。空気は熱を伝えにくい性質を持つため、これらの空気層が効果的な断熱層として機能します。
調湿性能:
木毛セメント板のもう一つの重要な特性が調湿性能です。木毛セメント板は、室内の湿度変化に応じて水分を吸収・放出する性質を持っています。具体的には。
この特性により、室内の湿度変動を緩和し、快適な湿度環境の維持に貢献します。過度な湿気は結露やカビの原因となるため、調湿性能は健康的な室内環境を保つ上で重要な要素です。
木毛の持つ大きな表面積と多孔質構造が、この調湿性能を可能にしています。木毛セメント板の体積に対する表面積が大きいため、保水や保湿の用途に適しているのです。
その他の性能:
木毛セメント板は断熱性と調湿性以外にも、以下のような性能を持っています。
木毛セメント板の多孔質な表面構造は、音波を効果的に吸収します。これにより、反響音を低減し、室内の音響環境を改善する効果があります。
特に高密度の木毛セメント板は、外部からの騒音を効果的に遮断する性能を持っています。
木毛セメント板は、アンモニアやメチルアミン等の臭気成分を吸着する性質があり、室内の空気質改善に貢献します。
これらの性能を総合的に活かすことで、木毛セメント板は住宅やオフィス、学校、病院など様々な建築物で快適な室内環境を創出するための重要な建材となっています。特に調湿性と断熱性を兼ね備えた材料は限られており、木毛セメント板の大きな特徴といえるでしょう。
エクセルシオール(木毛)セメント板は、その多様な特性から様々な建築用途で活用されています。ここでは、主な用途と施工方法について解説します。
主な建築用途:
木毛セメント板は、屋根の下地材として広く使用されています。特に「モクロック」のような製品は、ロックウール吸音板と木毛セメント板を組み合わせた複合板で、屋根下地材としての性能を高めています。これらは優れた断熱性と耐久性を持ち、屋根の長寿命化に貢献します。
外壁の下地材としても木毛セメント板は優れた性能を発揮します。防水性、断熱性、耐久性のバランスが取れているため、外壁材の下地として理想的です。
木毛セメント板の独特な表面質感を活かした内装材としての使用も増えています。塗装を施すことで様々な意匠性を持たせることができ、天井や壁面の仕上げ材として採用されています。特に自然素材を活かしたデザインが求められる空間で人気があります。
スタジオやホール、学校の音楽室など、音響性能が求められる空間での利用も多いです。木毛セメント板の多孔質構造が音を効果的に吸収し、反響を抑える効果があります。
熱伝導率の低い木毛セメント板は、断熱材としても使用されています。特に普通木毛セメント板は断熱性能が高く、エネルギー効率の良い建築物の構成要素として活用されています。
施工方法:
木毛セメント板の施工は比較的簡単で、以下のような特徴があります。
木毛セメント板は一般的な電動のこぎりや手のこぎりで容易に切断することができます。現場での寸法調整が簡単に行えるため、施工性に優れています。
木毛セメント板の固定には、主に釘やビスが使用されます。JIS規格では「くぎ側面抵抗」という指標があり、釘やビスで固定した際の強度が保証されています。例えば、硬質木毛セメント板(15mm厚)では500N以下の側面抵抗を持っています。
内装材として使用する場合、木毛セメント板は様々な塗料で仕上げることができます。水性塗料や油性塗料、珪藻土塗料など様々な種類の塗料に対応しており、意匠性の高い仕上がりが可能です。
木毛セメント板は、他の建材と組み合わせて使用されることも多いです。例えば、金属折板と木毛セメント板を組み合わせることで、屋内側では吸音性能、調湿性能を、屋外側では吸音・遮音及び断熱性能を有する複合壁を形成することができます。
壁耐火用木毛セメント板は、壁耐火1時間では大きさ910×1820mm、厚さ25mm、密度0.8±0.05の規格があり、防火区画など耐火性能が求められる箇所での使用が可能です。
施工時の注意点として、木毛セメント板は吸水性があるため、湿気の多い環境での保管や施工には注意が必要です。また、施工後の養生も重要で、急激な乾燥や湿気にさらされないよう配慮することで、長期間にわたって性能を維持することができます。
現代の建築業界では、環境負荷の低減が重要なテーマとなっています。木毛セメント板は、その製造から廃棄までのライフサイクル全体を通じて、環境に配慮した建材としての特性を持っています。
原材料と資源の有効活用:
木毛セメント板の主原料は、木材とセメントというシンプルな構成です。特に木材については、間伐材・未利用材および製材残材などを積極的に活用しています。これにより、以下のような環境メリットがあります。
間伐材の活用は、健全な森林育成にも貢献します。間伐は森林の過密状態を解消し、残った木々の成長を促進するために必要な作業ですが、その過程で生じる間伐材の有効活用先として木毛セメント板の製造は理想的です。
製材所から出る端材や残材を原料として再利用することで、廃棄物の削減に貢献しています。これはゼロウェイスト(廃棄物ゼロ)の理念に沿った取り組みといえます。
地域で発生する木材資源を地域内で加工・利用することで、輸送に伴うエネルギー消費と二酸化炭素排出の削減にも寄与しています。
有害物質を含まない安全性:
木毛セメント板は、環境や人体に悪影響を及ぼす有害物質を含まないクリーンな建材です。
シックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒドを含まないため、室内の空気質を汚染しません。
セメントによる固化により防腐性能が確保されるため、有害な防腐剤を使用する必要がありません。
アスベストなどの有害物質は一切含まれていないため、解体時の健康リスクもありません。
廃棄時の環境負荷:
建材の環境性能を考える上で、廃棄時の影響も重要です。木毛セメント板は廃棄時においても環境への負荷が小さいという特徴を持っています。
木毛セメント板は、解体後に破砕して路盤材や園芸用の土壌改良材などとして再利用することが可能です。セメントと木質繊維の複合材であるため、土壌に還元しても有害物質の溶出リスクが低いという利点があります。
火災や地震などの災害時にも、有害物質が飛散しないため、二次的な環境汚染のリスクが低減されます。実際、木毛セメント板は「木・水・セメントのみ」で作られているため、火災時にも有毒ガスの発生が最小限に抑えられます。
近年の研究開発により、建設廃材粉砕物を含んだ木毛セメント板も製品化されています。これは建設廃材のリサイクルを促進する取り組みの一環であり、循環型社会の構築に貢献しています。
カーボンフットプリントの観点:
木毛セメント板のライフサイクル全体でのカーボンフットプリント(二酸化炭素排出量)は、他の一般的な建材と比較して低い傾向にあります。
木材は成長過程で二酸化炭素を吸収・固定しています。木毛セメント板に使用されることで、その炭素は建築物内に長期間固定されることになります。
木毛セメント板の製造プロセスは、複雑な化学処理を必要としないシンプルなものであり、製造時のエネルギー消費は比較的低く抑えられています。
耐久性に優れた木毛セメント板は、建材の交換頻度を減らすことができます。これにより、建材の製造・廃棄に伴う環境負荷を長期的に見れば低減することができます。
環境配慮型建材としての木毛セメント板は、SDGs(持続可能な開発目標)の達成にも貢献していると言えるでしょう。特に「目標12:つくる責任・つかう責任」や「目標13:気候変動に具体的な対策を」などに関連した取り組みとして評価できます。
これらの環境に配慮した特性が、近年の木毛セメント板の需要増加の一因となっています。環境意識の高まりとともに、サステナブルな建材としての価値が再評価されているのです。