

「硬度A70のゴムを選んだのに、冬場だけシール不良が続いて補修費が数十万円かさんだ」という現場事例があります。
ショア硬度とは、ゴムやプラスチックなどの弾性体材料が「押し込み力に対してどれだけ抵抗するか」を数値化した指標です。金属で使われるビッカース硬さやロックウェル硬さとは根本的に異なり、ゴムや樹脂素材専用の測定スケールとして国際的に広く普及しています。
測定には「デュロメータ(Durometer)」という専用計器を使います。先端の圧子(インデンター)を材料表面に垂直に押し付け、そのくぼみの深さを0〜100のスケールで読み取る仕組みです。数値が大きいほど材料が硬く、0に近いほど柔らかいと判断します。つまり「100=最も硬い・圧子がほとんど沈まない状態」「0=圧子が最大ストローク(2.5mm)まで完全に沈んだ状態」です。
測定規格はほぼすべて ASTM D2240(ゴム特性の標準試験方法)に準拠しており、日本国内では JIS K 6253(デュロメータ硬さ試験)が対応規格として定められています。建築現場でゴム系防水材やパッキンの仕様書を確認する際、「ショアA70」「JIS硬度A70」などの記載があれば、どちらも同じ測定基準で読み解けます。
重要な点が一つあります。試験片の厚みは最低でも6.4mm(約1/4インチ)が必要です。薄すぎる試料では圧子の力が裏面の台まで伝わり、実際より高い硬度が測定される「パンチスルー誤差」が起きます。薄いシートやフィルム状のゴムを測定する場合は、複数枚重ねて条件を満たす必要があります。
| 硬度目安 | ショアA値 | 身近なイメージ |
|---|---|---|
| 極めて柔らかい | 10〜15° | こんにゃく・軟質ゲル |
| 柔らかい | 30°前後 | 自動車タイヤチューブ |
| 中程度 | 50°前後 | プラスチック消しゴム |
| やや硬い | 70°前後 | 野球の軟式ボール・Oリング標準 |
| 硬い | 90°前後 | 野球の硬球 |
| 非常に硬い | 95〜98° | ゴルフボール程度 |
建築現場で扱うシーリング材・防振ゴム・OリングなどのほとんどはショアA硬度30〜80°の範囲に収まります。この範囲の感覚をしっかり身につけるだけで、材料仕様書を読む精度が格段に上がります。
https://cp.misumi.jp/tech/tech24.html
ショア硬度には複数のスケールが存在します。建築業の現場では主に「ショアA」が使われますが、使用材料によって適切なスケールを選ばないと、まったく無意味な数値しか得られません。スケールを間違えたまま材料を選定してしまうと、仕様不適合の製品を使い続けるリスクがあります。
各スケールの違いは「圧子の形状」と「ばね力の大きさ」の2点に集約されます。それぞれの仕様は以下のとおりです。
| スケール | 圧子形状 | ばね力 | 対象材料の例 | 測定範囲の目安 |
|---|---|---|---|---|
| ショアA | 35度円錐台(先端が平ら) | 8.05N(約820g重) | OリングパッキンEPDMゴムタイヤ靴底TPE | 20A〜90A |
| ショアD | 30度円錐(先端半径0.1mm・鋭利) | 44.45N(約4.5kg重) | 硬質ゴムPVCパイプゴルフボールポリウレタンローラー | 20D〜100D |
| ショアC | 35度円錐台(Aと同形状) | 44.45N(Dと同荷重) | AとDの中間帯の材料 | Aの高域〜Dの低域 |
| ショアOO | 球状(半径1.20mm) | 1.111N(約113g重) | 超軟質ゲルシリコーンスポンジフォーム | A値10A未満の材料 |
建築現場で最もよく登場するのはショアAとショアDの2種類です。ショアAはシーリング用ゴム・防水シート・パッキン類など一般的なゴム製品に使われます。ショアDはPVC(塩ビ)パイプや硬質プラスチック製品の硬度表記に登場します。
スケールの切り替えの目安として、業界では次のルールが浸透しています。
- ショアA値が90Aを超えたら → ショアDに切り替え
- ショアD値が20D未満になったら → ショアAに切り替え
このルールを覚えておけば、仕様書で異なるスケールの数値が混在していても混乱せずに対処できます。これが基本です。
また、ショアAとショアDの換算はあくまで近似値であり、精密な計算値ではありません。国際ゴム規格でも「換算表は設計初期段階の参考値に過ぎない」と明記されています。実際の品質管理では、必ず対象のスケールで直接測定することが原則です。
https://www.siliconeab.com/jp/solutions/shore-hardness-guide.html
建築の現場では、用途に応じてさまざまなゴム素材が使われています。それぞれの材料が持つ標準的なショア硬度値を把握しておくことは、材料選定のミスを防ぐ上で欠かせない知識です。同じ「ゴム」という素材でも、種類によって硬度は大幅に異なります。
以下は主要なゴム素材のショア硬度(ショアA)と代表的な特性をまとめた一覧です。
| 材料名 | ショアA硬度の目安 | 最高使用温度 | 主な特徴 | 建築での主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| ニトリルゴム(NBR) | 50〜70° | 90〜99℃ | 耐油性に優れる | 油圧配管パッキン・Oリング |
| クロロプレンゴム(CR) | 45〜90° | 100〜120℃ | 耐候性・耐熱性・難燃性 | 屋外シーリング・防水シート |
| EPDM(エチレンプロピレン) | 40〜80°(一般的に60〜70°) | 120℃ | 耐候性・耐オゾン性が最高レベル | 屋根防水・窓枠ガスケット |
| ウレタンゴム | 15〜95°(広範囲) | 70〜80℃ | 耐摩耗性・耐荷重性に優れる | 防振材・床材・ローラー |
| シリコーンゴム | 50〜57° | 210〜230℃ | 耐熱性・耐寒性(−70℃まで) | 高温部位のシール・電気絶縁 |
| フッ素ゴム(FKM) | 65〜80° | 200〜230℃ | 耐薬品性・耐熱性が最高水準 | 化学設備・高温配管シール |
| ブチルゴム(IIR) | 60〜65° | 120℃ | 気体不透過性・振動吸収性 | 防水材・ルーフィング |
| 天然ゴム(NR) | 30〜80° | 80℃ | 弾性・引張強さが高い | 防振ゴム・免震装置 |
この表を見ると、ウレタンゴムの硬度範囲(ショアA15〜95°)が非常に広いことがわかります。「ウレタン=柔らかい」という先入観は危険です。配合次第で野球の硬球並みの硬度まで調整可能であり、用途に応じて適切な硬度グレードを指定する必要があります。
また、シリコーンゴムは耐熱性・耐寒性が特出しており、−70℃から200℃以上の環境でも安定した性能を発揮します。一般的なウレタンゴムの最高使用温度が70〜80℃であることと比較すると、その差は歴然としています。寒冷地や熱を受けやすい屋根付近のシール材選定では、この温度特性が大きな判断材料になります。
https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/technical_data/td05/a0110.html
建築・設備の現場では、材料の硬度表記がショア以外の単位で記載されているケースも少なくありません。機械部品や金属製品では「HV(ビッカース硬さ)」「HRC(ロックウェル硬さ)」「HBW(ブリネル硬さ)」が一般的です。これらの単位をショア硬さ(Hs)と照合することで、手元の材料の硬度特性をより立体的に理解できます。
| ショア硬さ(Hs) | ビッカース(HV) | ロックウェルC(HRC) | ブリネル(HBW) | 引張強さ近似(N/mm²) |
|---|---|---|---|---|
| 97 | 940 | 68 | — | — |
| 81 | 746 | 62 | — | — |
| 65 | 595 | 55 | — | — |
| 53 | 464 | 47 | 434 | 1,550 |
| 42 | 345 | 36 | 327 | 1,140 |
| 35 | 272 | 28 | 260 | 895 |
ただし、上の表はあくまでも金属(鋼材)に対する換算値です。ゴムやプラスチックに使われるショアA・ショアDとは別の測定系です。異なるスケール間の換算はすべて「近似値」に過ぎず、精密な工学的換算値ではないことを必ず念頭に置いてください。
現場でよく起きる混乱として、「ショアA70」と「ショア硬さ70Hs」を同一視してしまうケースがあります。ショアA70はゴムの柔軟材料の指標、ショア硬さ70Hs(金属のショア硬さ)はまったく別の測定系です。同じ「70」という数字でも意味がまったく異なります。仕様書に「硬度70」とだけ記載されている場合は、必ず単位・測定スケールを確認することが必須です。
金属材料向けの硬度換算を確認したい場合は、日本規格協会(JIS)の硬度換算表が信頼性の高いリファレンスになります。
https://www.silicolloy.co.jp/lookup_table/hardness_conversion_table/
「どの硬度を選べばいいか」という問いに対して、現場ではとりあえず「標準的なA70°」を選びがちです。しかし、環境条件や用途を無視した硬度選定は、シール不良・防水性能低下・早期劣化という形で後から大きなコストになって返ってきます。
ゴムの硬度は温度によって変化します。これが建築現場で見落とされやすい重要な事実です。一般に、ゴムは温度が上がると柔らかくなり(硬度が下がる)、温度が下がると硬くなります。夏の屋上では50〜60℃に達する防水シートのゴム面が、冬の寒冷地では−20℃以下になることもある——この温度差に対応できない硬度選定がシール不良の一因になります。
JIS規格 JIS K 6253は、ゴム硬度の測定方法を規定していますが、硬度の公差は一般的に±5°とされています。つまり「硬度A70°のゴム」でも、製品によってA65〜A75°の範囲でばらつくことが許容されています。これはちょうど野球の軟球と、プラスチック消しゴムの中間くらいの感触の差に相当します。高圧部位や精密シール箇所では、このバラつきが性能に直接影響するため、ただ「A70°」と指定するだけでなく、実測値の確認も検討に値します。
建築現場での硬度選定は、以下の4条件をセットで考えることが実務上の基本です。
| 条件 | 内容 | 硬度選定への影響 |
|---|---|---|
| 🌡️ 使用温度 | 夏季高温〜冬季低温の温度差 | 寒冷地はEPDMやシリコーン系(耐寒−70℃)を優先 |
| 💧 使用圧力 | 水圧・気圧・荷重 | 高圧ほど高硬度(80°以上)が有利。低圧は60°前後 |
| 📐 相手面の粗さ | フランジ面・コンクリート面の仕上げ精度 | 粗い面には低硬度(60°前後)+高圧縮率で追従 |
| ⏱️ 使用期間 | 長期屋外暴露・繰り返し荷重 | 圧縮永久ひずみが小さい材料・高硬度を選定 |
「圧縮永久ひずみ」は、ゴムが長期間押しつぶされた状態に置かれた後、元の形に戻る力が失われる現象です。この値が大きいほど、年月とともにシール性能が低下します。気温40℃以上の環境で使用される場合、通常の3〜5倍の速さで圧縮永久ひずみが進行するという目安があります。これは使えそうなデータです。
建築向けシーリング材の規格はJIS A 5758(建築用シーリング材)に定められており、製造後6ヶ月以上経過した製品は使用不可と規定されています。ショア硬度の数値だけに目が行きがちですが、製造日・製品ロットの確認も防水・シール性能を担保する上で欠かせない実務的なポイントです。
https://www.fujigom.co.jp/manufacturing/20251128-5512/
建築業の現場でときどき起きる誤解として、「ショア硬度が同じ=同じ性能」という思い込みがあります。これは危険です。硬度はあくまでも材料性能の一側面に過ぎず、同じショアA70°のゴムでも、材質や配合の違いによって耐候性・耐油性・耐熱性は大きく異なります。
たとえばクロロプレンゴム(ショアA65°)とニトリルゴム(ショアA70°)は硬度がほぼ同じですが、その用途は全く異なります。クロロプレンは屋外の耐候性・難燃性に優れ、ニトリルは耐油性に特化しています。屋外配管のシール材として「硬度だけを見てニトリルゴムを選んだ」という判断は、数年後の劣化クレームにつながりかねません。
ショア硬度と合わせて確認すべき特性は主に5つあります。
- 最高使用温度・耐寒温度:使用環境の温度域をカバーしているか
- 圧縮永久ひずみ:長期シール性能の維持に直結する
- 耐候性・耐オゾン性:屋外暴露に耐えられるか(EPDMが優位)
- 耐油性・耐薬品性:接触する流体・薬品との適合性
- 引張強さ・切断時伸び:施工時の取り扱いや変形への追従性
これらの特性と硬度を組み合わせることで、はじめて適切な材料選定が完成します。硬度は「入口」の指標です。
現場での材料確認には、各メーカーが公開している「物性表(データシート)」を活用するのが確実です。複数の材料を比較する際は、JIS K 6251(引張強さ・伸び)やJIS K 6253(硬さ)など測定規格が統一された数値を比べることが重要です。異なる試験条件の数値を横並びで比較しても意味がありません。
ウレタンゴムにはエーテル系とエステル系の2種があり、同じ硬度表記でも特性が分かれます。エーテル系(ショアA90〜95°)は耐加水分解性・耐酸アルカリ性に優れる一方、エステル系(ショアA30〜70°)は引張強度・引裂強度・耐油性で上回ります。屋外や水廻りにはエーテル系、機械的強度重視の用途にはエステル系と使い分けるのが基本です。これが原則です。
硬度以外の多角的な性能評価は、施工後のトラブルや補修コストを未然に抑えるための投資と考えてください。硬度一覧はあくまでも出発点。その先の特性確認まで行うことが、長く信頼される仕事につながります。
https://www.packing.co.jp/SIRYOU/gomukoudo1.htm