断熱木毛セメント板の一覧と製品特性ガイド

断熱木毛セメント板の一覧と製品特性ガイド

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断熱木毛セメント板の一覧と特徴

断熱木毛セメント板の優れた機能性
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多機能建材

断熱性・吸音性・防火性を兼ね備えた高性能建材

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環境貢献

間伐材・未利用材を活用した環境配慮型素材

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製品バリエーション

用途に応じた多様な製品から最適な選択が可能

断熱木毛セメント板の基本性能と種類

木毛セメント板は、間伐材や製材残材などをリボン状に削り出した木毛とセメントを混練し、圧縮・成型した建築用ボードです。約一世紀にわたる使用実績があり、その優れた断熱性能から多くの建築現場で活用されています。

 

木毛セメント板はJIS規格によって以下の3種類に分類されています。

  • 普通木毛セメント板: 最も一般的なタイプで、熱伝導率0.09W/mKと最も高い断熱性能を持ちます。
  • 中質木毛セメント板: 熱伝導率0.11W/mKで、普通タイプと硬質タイプの中間的な特性を持ちます。
  • 硬質木毛セメント板: 強度が高く、熱伝導率は0.13W/mKです。

また木毛の太さによっても分類され、細、中細(最も普及している3.5mm)などがあります。セメント種類としては、一般的なポルトランドセメントと意匠性を向上させる白色セメントがあります。

 

断熱木毛セメント板の主な特徴は以下の通りです。

  1. 優れた断熱性: 木毛内部の無数の空気層が断熱効果を発揮し、夏は涼しく冬は暖かい室内環境を実現します。コンクリートと比較すると、エネルギー消費量は約1/4以下になるとされています。
  2. 防火性能: 建築基準法では不燃材料の代表として木毛セメント板が明記されています。火災時に有毒ガスを発生せず、安全性が高い建材です。
  3. 吸音・遮音性: 厚さ20~100mmの幅広いラインナップがあり、様々な音域に対応できる吸音材料として機能します。
  4. 調湿効果: 湿度が高い時には吸湿し、低い時には放湿することで室内の湿度環境を整える「呼吸する建材」と言われています。
  5. 脱臭性: アンモニアやメチルアミンなどの臭いを軽減する効果があり、ペットを飼っている空間にも適しています。

特殊なタイプとしては、以下のような製品も存在します。

  • 木毛パーライトセメント板: パーライトを混入して軽量化し、耐火性能を向上させた製品
  • アール付木毛セメント板: 湾曲部に対応できるタイプ
  • 多層木毛セメント板: 2種類以上の木毛を積層して性能を向上させたもの
  • 補強木毛セメント板: 竹・ラス・ネットなどで補強したタイプ
  • 塗装木毛セメント板: エマルションペイントなどで仕上げたタイプ

断熱木毛セメント板のメーカーと製品比較

日本国内の主要メーカーと断熱木毛セメント板製品を比較してみましょう。各メーカーが独自の特長を持った製品を展開しています。

 

1. 栄進工業株式会社
栄進工業は断熱性能に優れた木毛セメント板の専門メーカーです。主な製品は以下の通りです。

  • 栄進トップボード: 木毛繊維の幅を広くすることで、無数の独立した空気層を形成し、断熱性能を向上させた製品です。寸法は910×1,820mm、厚さは30、40、50mmがあります。主にRC構造物の打ち込みに使用されます。
  • エイシンPWボード: 木毛パーライトセメント板で、木毛セメント板と同等の比重でありながら屋根耐火認定を持っています。木毛セメント板と同等以上の性能を備え、主に屋根下地材として使用されます。
  • セナミー: コンクリート打ち込み用の型枠木毛セメント板です。コンパネを使用する従来の工法に比べて様々な工期短縮や現場残材の削減などのメリットがあります。コンクリートとの付着性が非常に良く、内部結露や中性化を防止します。
  • ノンネンボード: 不燃木毛セメント板で、国土交通大臣認定の不燃材料です。

2. 竹村工業株式会社
竹村工業の木毛セメント板製品は国産ヒノキの間伐材を使用しており、環境に配慮した製品づくりを行っています。

  • TSボード: 国土交通大臣の認定を受けた準不燃材料です。通常の火災による加熱開始後10分間燃焼せず、防火上有害な変形や損傷が生じません。
  • 木毛パーライトセメント板: パーライトの混入により軽量化し、耐火性や吸音性など全ての性能を向上させた製品です。準不燃材料認定、屋根30分耐火構造認定を取得しています。
  • モクロック: ロックウール吸音板裏貼り木毛セメント板で、吸音・断熱の利点はそのままに野地板本来の特長にプラスした高性能複合板です。国土交通大臣指定屋根30分耐火構造認定材として認められています。

3. 日化ボード株式会社
日化ボードは木毛セメント板の歴史あるメーカーで、多様な製品を提供しています。

  • 日化ノンネンボード: 不燃木毛セメント板で、従来の木毛セメント板より木質繊維量を少なくし、新開発の無機質混和剤を混入することにより耐火性能を飛躍的に高めた製品です。耐火・準耐火・防火建築物で不燃材料の使用を義務付けられている場所に適しています。
  • 木毛パーライトセメント板: 軽量で耐火性に優れ、高い断熱性能を持つ製品です。

各社の製品を比較する際の主なポイントは以下の通りです。

メーカー 製品名 特徴 主な用途 寸法(mm) 厚さ(mm)
栄進工業 栄進トップボード 幅広木毛による高断熱 RC打込 910×1,820 30, 40, 50
栄進工業 エイシンPWボード 木毛パーライト複合 屋根下地 910×1,820 25, 30, 40, 50
竹村工業 TSボード 準不燃認定 内装制限箇所 標準サイズ 標準厚さ
竹村工業 モクロック ロックウール複合 屋根下地 標準サイズ 標準厚さ
日化ボード 日化ノンネンボード 不燃認定 耐火・準耐火建築物 標準サイズ 標準厚さ

製品選定の際は、求められる防火性能、断熱性能、意匠性などを考慮して最適な製品を選ぶことが重要です。

 

断熱木毛セメント板の施工方法と注意点

断熱木毛セメント板の性能を最大限に発揮するためには、適切な施工方法を理解することが重要です。主な施工方法と注意点について解説します。

 

屋根・野地板としての施工

  1. 下地の準備: 木毛セメント板を取り付ける胴縁は、910mm間隔に不陸がないように柱や間柱に取り付けます。
  2. 木毛セメント板の取り付け: ドリリングタッピンねじ(ステンレスリーマテクスねじ4φ×50mm以上)などを使用し、端部から20~40mm程度内側に400mm以下の間隔で留め付けます。
  3. 防水処理: 木毛セメント板施工後は、すみやかに防水紙または表面材を施工してください。雨に濡れた場合は、十分乾燥させた後、防水紙を施工します。濡れたままの施工は、しみ、汚れ、波打ち、強度低下等の原因になります。
  4. 屋根材の取り付け: 耐風圧力(負圧)などを考慮した間隔で下地の軽量形鋼に屋根材を取り付けます。

壁耐火用途での施工

  1. 下地準備: 胴縁は910mm間隔に不陸がないように取り付けます。
  2. 壁耐火用木毛セメント板の取り付け: ビスにて450mm間隔以内に取り付けます。T型ジョイナーの使用も可能です。
  3. せっこうボードの取り付け: 木毛セメント板と100mm以上目地をずらして取り付けることが推奨されています。

コンクリート打ち込み工法

  1. 型枠準備: 木毛セメント板をあらかじめ型枠の内側に取り付けます。
  2. 天井(スラブ)施工: 梁によって区切られた面に木毛セメント板を割り付けます。木毛セメント板の端部が梁の中に食い込まないように割り付ける必要があります。並べた後、上から45cm間隔程度軽く釘止めします。
  3. コンクリート打設: コンクリートを打ち込むことで強固に取り付けられます。この工法により、コンクリートの中性化を防ぎ、耐久性が飛躍的に向上します。

施工上の注意点

  1. 水濡れへの対策: 木毛セメント板は常時水に接する環境での使用は避けてください。雨に濡れた場合は十分に乾燥させてから次の工程に進みます。
  2. 切断作業時の注意: 狭い場所で多量の切断作業を行う場合は、十分な外気の導入を行い、粉塵量を低下させてください。
  3. 取り付け位置: 人が触れる場所への使用は避けるのが望ましいです。木毛セメント板はざらざらした表面を持つため、手の触れる部分には適していません。そのため、天井など触れにくい場所での使用が推奨されています。
  4. 防火・耐火性能の確保: 防火・耐火構造として認定を受けた仕様で施工する場合は、認定内容に従った材料・工法を厳守する必要があります。

断熱木毛セメント板の活用例と実績

断熱木毛セメント板は多様な建築物で活用されており、その実績は長い歴史を持っています。具体的な活用例と実績を紹介します。

 

体育館・スポーツ施設
体育館やスポーツ施設は、断熱木毛セメント板の代表的な活用例です。木毛セメント板の優れた吸音性能と断熱性能により、広い空間でも快適な環境を実現します。バスケットボールやバレーボールなどの競技音を吸収し、エコー現象を抑制します。また、夏の暑さと冬の寒さを和らげる断熱効果により、年間を通じて快適な室内環境を維持できます。

 

学校施設
教育施設では、学習環境の質を向上させるために木毛セメント板が多く使用されています。教室や音楽室、多目的ホールなどで使用され、音の反響を抑制し、集中できる環境を作り出します。また、自然素材を活用した健康的な空間づくりにも貢献しています。

 

駅舎・公共施設
駅のホームや待合所など、多くの人が利用する公共空間でも木毛セメント板は活用されています。特に、ホーム上屋の天井材として使用されることが多く、電車の走行音や雨音を吸収し、快適な待合環境を提供します。耐久性と防火性を兼ね備えた素材として、長期間にわたり安全性を確保しています。

 

工場・倉庫
工場や倉庫などの大型産業施設では、断熱木毛セメント板が屋根野地板や壁下地材として広く使用されています。大空間の温度管理を効率的に行うための断熱材として、また機械音や作業音を吸収する吸音材として機能します。特に金属屋根との組み合わせにより、雨音の低減効果も発揮します。

 

住宅
一般住宅や集合住宅においても、木毛セメント板の活用が増えています。屋根下地材としての使用だけでなく、内装材としても注目されています。自然な風合いを持つ意匠性と調湿効果により、健康的で快適な住環境を実現します。特に、アレルギー対策やシックハウス対策として注目されています。

 

ケーススタディ:省エネ効果の実証例
ある研究によると、8畳一間の空間で、コンクリートのみの場合と25mm厚の木質セメント板を使用した場合の熱損失を比較したところ、1.01×10^10Jもの熱損失差が生じました。これはガス代に換算して約22,900円の節約になります(計算は東京ガス平成15年9月時点の料金で算出)。実際の住居ではさらに大きな省エネ効果が期待できます。

 

断熱木毛セメント板の活用により、建物の省エネ性能が向上するだけでなく、音環境や湿度環境も改善され、総合的に快適な空間を実現できることが実証されています。

 

断熱木毛セメント板のサステナビリティと環境貢献

断熱木毛セメント板は、その製造から廃棄までの過程において、環境負荷の低減やサステナビリティの実現に大きく貢献している建材です。特に近年の環境意識の高まりとともに、その価値が再評価されています。

 

間伐材・未利用材の有効活用
木毛セメント板の主原料となる木毛は、間伐材や製材残材、未利用材を活用して製造されます。特に国産の針葉樹(ヒノキなど)の間伐材を積極的に利用することで、森林の健全な成長を促進し、CO2吸収源としての森林機能を維持することに貢献しています。

 

竹村工業株式会社の製品は、すべて国産ヒノキの間伐材を使用していることを明記しており、地域の森林資源の循環利用に寄与しています。間伐材の利用は、林業の活性化にもつながり、地域経済への貢献も期待できます。

 

リサイクル性と廃材の再利用
木毛セメント板の製造過程で発生する端材や残材は、再び製品の原料として利用されるリサイクルシステムが確立されています。また、建設現場から出る廃材も回収し、再資源化することで、廃棄物の削減に貢献しています。

 

こうした資源の循環利用の取り組みが評価され、2001年4月から木毛セメント板はグリーン購入法の指定材料となっています。公共工事などにおいて優先的に使用される環境配慮型建材として認められています。

 

省エネルギー効果による環境負荷低減
木毛セメント板の優れた断熱性能は、建物のエネルギー消費量を大幅に削減します。前述の計算例では、コンクリートのみの場合と比較して約1/4のエネルギー消費で済むとされています。

 

冷暖房エネルギーの削減は、CO2排出量の削減に直結するため、地球温暖化対策としても有効です。建物のライフサイクル全体で考えると、製造時のエネルギー投入量を大きく上回る省エネ効果が期待できます。

 

健康・安全性への配慮
木毛セメント板はアスベストなどの有害物質を一切含まず、シックハウスの原因となる化学物質の放散も極めて少ない健康建材です。火災時にも有毒ガスを発生しないため、災害時の安全性も高く評価されています。

 

また、調湿効果や脱臭効果により室内環境の質を向上させる機能を持ち、居住者の健康を守る役割も果たしています。特に、化学物質過敏症やアレルギー疾患を持つ人にとって、安心して使用できる建材として注目されています。

 

今後の展望と課題
断熱木毛セメント板は、SDGs(持続可能な開発目標)の達成にも貢献できる建材として、さらなる普及が期待されています。特に、「つくる責任、つかう責任」や「気候変動に具体的な対策を」といった目標に対して、具体的な解決策を提供できる可能性を秘めています。

 

一方で、木毛セメント板の製造には、セメント生産に伴うCO2排出という課題も存在します。今後は、低炭素セメントの活用や製造工程の省エネ化など、さらなる環境負荷低減に向けた技術開発が期待されています。

 

木質資源とセメントを組み合わせた複合材料としての特性を活かしながら、より環境に配慮した製品開発が進められることで、断熱木毛セメント板のサステナビリティへの貢献はさらに高まることでしょう。