
木毛セメント板は、間伐材や製材残材などをリボン状に削り出した木毛とセメントを混練し、圧縮・成型した建築用ボードです。約一世紀にわたる使用実績があり、その優れた断熱性能から多くの建築現場で活用されています。
木毛セメント板はJIS規格によって以下の3種類に分類されています。
また木毛の太さによっても分類され、細、中細(最も普及している3.5mm)などがあります。セメント種類としては、一般的なポルトランドセメントと意匠性を向上させる白色セメントがあります。
断熱木毛セメント板の主な特徴は以下の通りです。
特殊なタイプとしては、以下のような製品も存在します。
日本国内の主要メーカーと断熱木毛セメント板製品を比較してみましょう。各メーカーが独自の特長を持った製品を展開しています。
1. 栄進工業株式会社
栄進工業は断熱性能に優れた木毛セメント板の専門メーカーです。主な製品は以下の通りです。
2. 竹村工業株式会社
竹村工業の木毛セメント板製品は国産ヒノキの間伐材を使用しており、環境に配慮した製品づくりを行っています。
3. 日化ボード株式会社
日化ボードは木毛セメント板の歴史あるメーカーで、多様な製品を提供しています。
各社の製品を比較する際の主なポイントは以下の通りです。
メーカー | 製品名 | 特徴 | 主な用途 | 寸法(mm) | 厚さ(mm) |
---|---|---|---|---|---|
栄進工業 | 栄進トップボード | 幅広木毛による高断熱 | RC打込 | 910×1,820 | 30, 40, 50 |
栄進工業 | エイシンPWボード | 木毛パーライト複合 | 屋根下地 | 910×1,820 | 25, 30, 40, 50 |
竹村工業 | TSボード | 準不燃認定 | 内装制限箇所 | 標準サイズ | 標準厚さ |
竹村工業 | モクロック | ロックウール複合 | 屋根下地 | 標準サイズ | 標準厚さ |
日化ボード | 日化ノンネンボード | 不燃認定 | 耐火・準耐火建築物 | 標準サイズ | 標準厚さ |
製品選定の際は、求められる防火性能、断熱性能、意匠性などを考慮して最適な製品を選ぶことが重要です。
断熱木毛セメント板の性能を最大限に発揮するためには、適切な施工方法を理解することが重要です。主な施工方法と注意点について解説します。
屋根・野地板としての施工
壁耐火用途での施工
コンクリート打ち込み工法
施工上の注意点
断熱木毛セメント板は多様な建築物で活用されており、その実績は長い歴史を持っています。具体的な活用例と実績を紹介します。
体育館・スポーツ施設
体育館やスポーツ施設は、断熱木毛セメント板の代表的な活用例です。木毛セメント板の優れた吸音性能と断熱性能により、広い空間でも快適な環境を実現します。バスケットボールやバレーボールなどの競技音を吸収し、エコー現象を抑制します。また、夏の暑さと冬の寒さを和らげる断熱効果により、年間を通じて快適な室内環境を維持できます。
学校施設
教育施設では、学習環境の質を向上させるために木毛セメント板が多く使用されています。教室や音楽室、多目的ホールなどで使用され、音の反響を抑制し、集中できる環境を作り出します。また、自然素材を活用した健康的な空間づくりにも貢献しています。
駅舎・公共施設
駅のホームや待合所など、多くの人が利用する公共空間でも木毛セメント板は活用されています。特に、ホーム上屋の天井材として使用されることが多く、電車の走行音や雨音を吸収し、快適な待合環境を提供します。耐久性と防火性を兼ね備えた素材として、長期間にわたり安全性を確保しています。
工場・倉庫
工場や倉庫などの大型産業施設では、断熱木毛セメント板が屋根野地板や壁下地材として広く使用されています。大空間の温度管理を効率的に行うための断熱材として、また機械音や作業音を吸収する吸音材として機能します。特に金属屋根との組み合わせにより、雨音の低減効果も発揮します。
住宅
一般住宅や集合住宅においても、木毛セメント板の活用が増えています。屋根下地材としての使用だけでなく、内装材としても注目されています。自然な風合いを持つ意匠性と調湿効果により、健康的で快適な住環境を実現します。特に、アレルギー対策やシックハウス対策として注目されています。
ケーススタディ:省エネ効果の実証例
ある研究によると、8畳一間の空間で、コンクリートのみの場合と25mm厚の木質セメント板を使用した場合の熱損失を比較したところ、1.01×10^10Jもの熱損失差が生じました。これはガス代に換算して約22,900円の節約になります(計算は東京ガス平成15年9月時点の料金で算出)。実際の住居ではさらに大きな省エネ効果が期待できます。
断熱木毛セメント板の活用により、建物の省エネ性能が向上するだけでなく、音環境や湿度環境も改善され、総合的に快適な空間を実現できることが実証されています。
断熱木毛セメント板は、その製造から廃棄までの過程において、環境負荷の低減やサステナビリティの実現に大きく貢献している建材です。特に近年の環境意識の高まりとともに、その価値が再評価されています。
間伐材・未利用材の有効活用
木毛セメント板の主原料となる木毛は、間伐材や製材残材、未利用材を活用して製造されます。特に国産の針葉樹(ヒノキなど)の間伐材を積極的に利用することで、森林の健全な成長を促進し、CO2吸収源としての森林機能を維持することに貢献しています。
竹村工業株式会社の製品は、すべて国産ヒノキの間伐材を使用していることを明記しており、地域の森林資源の循環利用に寄与しています。間伐材の利用は、林業の活性化にもつながり、地域経済への貢献も期待できます。
リサイクル性と廃材の再利用
木毛セメント板の製造過程で発生する端材や残材は、再び製品の原料として利用されるリサイクルシステムが確立されています。また、建設現場から出る廃材も回収し、再資源化することで、廃棄物の削減に貢献しています。
こうした資源の循環利用の取り組みが評価され、2001年4月から木毛セメント板はグリーン購入法の指定材料となっています。公共工事などにおいて優先的に使用される環境配慮型建材として認められています。
省エネルギー効果による環境負荷低減
木毛セメント板の優れた断熱性能は、建物のエネルギー消費量を大幅に削減します。前述の計算例では、コンクリートのみの場合と比較して約1/4のエネルギー消費で済むとされています。
冷暖房エネルギーの削減は、CO2排出量の削減に直結するため、地球温暖化対策としても有効です。建物のライフサイクル全体で考えると、製造時のエネルギー投入量を大きく上回る省エネ効果が期待できます。
健康・安全性への配慮
木毛セメント板はアスベストなどの有害物質を一切含まず、シックハウスの原因となる化学物質の放散も極めて少ない健康建材です。火災時にも有毒ガスを発生しないため、災害時の安全性も高く評価されています。
また、調湿効果や脱臭効果により室内環境の質を向上させる機能を持ち、居住者の健康を守る役割も果たしています。特に、化学物質過敏症やアレルギー疾患を持つ人にとって、安心して使用できる建材として注目されています。
今後の展望と課題
断熱木毛セメント板は、SDGs(持続可能な開発目標)の達成にも貢献できる建材として、さらなる普及が期待されています。特に、「つくる責任、つかう責任」や「気候変動に具体的な対策を」といった目標に対して、具体的な解決策を提供できる可能性を秘めています。
一方で、木毛セメント板の製造には、セメント生産に伴うCO2排出という課題も存在します。今後は、低炭素セメントの活用や製造工程の省エネ化など、さらなる環境負荷低減に向けた技術開発が期待されています。
木質資源とセメントを組み合わせた複合材料としての特性を活かしながら、より環境に配慮した製品開発が進められることで、断熱木毛セメント板のサステナビリティへの貢献はさらに高まることでしょう。