

保温材(発泡ポリスチレン)の継ぎ目を1mmでも放置すると、断熱性能が最大20%低下します。
建築現場でよく耳にする「保温材(発泡ポリスチレン)」ですが、実はひとくくりにできない2つの種類が存在します。ひとつはEPS(ビーズ法ポリスチレンフォーム)、もうひとつはXPS(押出法ポリスチレンフォーム)です。どちらもポリスチレン樹脂を原料とする発泡プラスチック系保温材ですが、製造方法がまったく異なります。
EPSは、ポリスチレン樹脂の粒(ビーズ)を炭化水素系ガスで発泡させた後、蒸気と圧力をかけてビーズ同士を融着させた板状の素材です。断面を見ると小さな白い粒の集合体になっており、いわゆる「発泡スチロール」として食材のパッケージや魚箱でもおなじみのあの素材です。一方のXPSは、ポリスチレン樹脂と発泡剤をまとめて溶融混合し、連続的に押し出して成形したもの。代表的な商品名では「スタイロフォーム(デュポン・スタイロ社)」や「カネライトフォーム(カネカ社)」が知られています。
JIS規格上の分類では、EPSは「A種ビーズ法ポリスチレンフォーム保温板」、XPSは「A種押出法ポリスチレンフォーム保温板」と区別され、それぞれ1種・2種・3種という性能グレードが設けられています。熱伝導率で比較すると、EPSの1種bが0.036W/(m·K)以下、XPSの3種bAが0.028W/(m·K)以下となっており、グレードが上がるほど断熱性能は高くなります。
つまり、原料は同じでも性能は別物、という認識が必要です。
参考:押出法ポリスチレンフォーム保温材の種類・熱伝導率の公式規格情報(カネカ社)
https://www2.kenzai.kaneka.co.jp/kanelite/images/catalog/cat001.pdf
発泡ポリスチレン保温材は、建築現場で長年使われてきた実績のある材料です。主なメリットとして、まず熱伝導率の低さが挙げられます。ポリスチレン樹脂そのものの熱伝導率は0.33〜0.52W/(m·K)程度ですが、発泡させることで内部に空気を閉じ込め、0.03〜0.04W/(m·K)という非常に低い値を実現しています。これはコンクリートの熱伝導率(約1.5W/(m·K))と比べると、約50分の1以下という驚異的な低さです。
次に耐水性の高さも重要なメリットです。特にXPSは独立気泡構造のため吸水率が非常に低く、基礎断熱や土間下のような湿気の多い部位にも適しています。また、板状で剛性があるため加工・施工がしやすく、カッターや電熱線で現場カットができる点も施工業者にとって大きな利点です。軽量なので取り扱いも容易で、施工効率が上がります。
一方でデメリットも把握しておく必要があります。これは後述します。
| 項目 | EPS(ビーズ法) | XPS(押出法) |
|------|----------------|--------------|
| 熱伝導率 | 0.036〜0.040W/(m·K)(1種) | 0.024〜0.036W/(m·K)(3種〜1種) |
| 耐水性 | 中程度 | 高い(独立気泡) |
| 圧縮強度 | 中程度 | 高い |
| 価格 | 比較的安価 | やや高価 |
| 主な用途 | 壁・天井断熱・外断熱 | 基礎断熱・屋根・土間下 |
| 加工性 | 容易 | 容易 |
耐火性能については注意が必要です。発泡プラスチック系は本来燃えやすい素材ですが、難燃剤を添加したグレードでは、JIS規格で「3秒以内に炎が消えて残じんがなく、燃焼限界指示線を超えて燃焼しない」という基準をクリアしています。それでも繊維系断熱材と比べると火に弱い傾向があります。熱に弱いのが最大の弱点です。
参考:発泡プラスチック保温材の断熱性能・種類の解説(発泡プラスチック建築技術協会)
https://b-cep.org/plastic/index_about.html
現場での施工ミスが断熱性能を大幅に下げることは、意外と知られていません。特に多いのが以下の3つです。
① 継ぎ目の隙間処理の省略
発泡ポリスチレン保温材は板状で施工するため、必ず継ぎ目が生じます。この継ぎ目を処理せずに放置すると「熱橋(サーマルブリッジ)」が発生し、断熱欠損につながります。国土交通省の設計・施工指針にも「発泡プラスチック系断熱材(ボード状)を用いる場合は、隙間を生じさせないよう注意が必要」と明記されています。継ぎ目はテープや現場発泡ウレタンで必ず塞ぐことが原則です。
断熱欠損が1箇所でも起きると、その部分から熱が集中的に逃げるため、建物全体の断熱性能が設計値を大きく下回るリスクがあります。省エネ計算上の性能と実際の性能が乖離してしまう問題も発生します。断熱層の連続性が命です。
② 紫外線による劣化を放置する
発泡ポリスチレンは紫外線に弱い素材です。スタイロフォームの製品仕様書にも「直射日光に長時間さらすと徐々に表面から変色劣化し、接着不良・厚さ減少等の原因となる」と明記されています。施工後に仕上げ材で覆わず放置すると、表面が黄変・脆化し、断熱性能そのものが低下します。現場での保管時は養生シートで覆い、施工後は速やかに仕上げを行うのが鉄則です。これは必須の対策です。
③ 有機溶剤・石油系製品との接触
見落としがちなのが、塗料や接着剤との相性です。発泡ポリスチレンは有機溶剤・石油類に侵されやすく、溶剤系塗料や一部の接着剤が直接触れると素材が溶けたり変形したりします。ニチアスのレポートにも「ポリスチレンフォーム系保温材は有機溶剤・石油類には侵されやすいため注意が必要」と記載されています。周辺材料を選定する際は、必ず水性系または発泡ポリスチレン対応品を使用するようにしてください。
参考:住宅省エネルギー設計と施工2023(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001977880.pdf
「とりあえず手元にあるものを使う」という判断は危険です。発泡ポリスチレン保温材はグレードによって性能が大きく異なり、施工部位に合った種類の選択が品質と省エネ性能を直接左右します。
まず基礎・土間下には、XPSの2種または3種が適しています。土中の水分や湿気に長期間さらされる環境では、EPSよりも独立気泡構造で吸水率が低いXPSの方が耐久性に優れます。圧縮強度も1種bで16N/cm²、3種bで20N/cm²と高く、コンクリート打設時の荷重にも耐えられます。この数値はA4用紙1枚あたり約200kgの荷重に相当するイメージです。
外壁・屋根の外張り断熱には、EPSまたはXPSのどちらも使用できますが、2025年の省エネ義務化対応を見据えると、XPS3種(熱伝導率0.028W/(m·K)以下)など高性能グレードの採用が増えています。断熱等級4(UA値0.87以下)を達成するための断熱厚は地域・工法によって異なりますが、グレードの高い材料を使うほど必要厚を薄くでき、コスト最適化につながります。
天井・壁の充填断熱では、EPSが加工性の高さから多用されます。現場でカッターや電熱線で自在にカットできるため、複雑な形状の部位にも対応しやすいのが特徴です。ただし、気密テープによる継ぎ目処理を省略すると断熱欠損が発生するリスクがあることは前述の通りです。
🏗️ 部位別・推奨グレードの目安まとめ
- 基礎断熱・土間下:XPS 2種b以上(熱伝導率0.034W/(m·K)以下)
- 外張り断熱(高性能住宅):XPS 3種bA(熱伝導率0.028W/(m·K)以下)
- 一般住宅の外壁充填断熱:EPS 2種b(熱伝導率0.034W/(m·K)以下)
- 高断熱住宅・ZEH対応:XPS 3種bCまたはフェノールフォームとの併用
これがグレード選定の基本原則です。
参考:断熱材種類別グレードと熱伝導率の国土交通省公式一覧
https://www.mlit.go.jp/common/000056525.pdf
多くの建築業者が意外と見落としているのが、現場廃材の処理方法です。発泡ポリスチレンの端材は「廃プラスチック類」として産業廃棄物に分類されます。一般廃棄物として処分することはできません。廃棄物処理法に基づき、許可を受けた産業廃棄物処理業者に委託する必要があります。無許可業者への委託や現場での野焼きは法令違反となり、行政処分の対象になる可能性があります。廃材処理は最初から計画に入れておくのが鉄則です。
現場でできる廃材削減策としては、事前の正確な拾い出しによるロス削減と、メーカーのリサイクルプログラムの活用があります。たとえばデュポン・スタイロ社では「広域認定制度」を活用し、使用済みスタイロフォームの端材をマテリアルリサイクルする仕組みを整えています。量が多い場合はメーカーに問い合わせてみる価値があります。
一方、2025年4月から施行された改正建築物省エネ法により、原則すべての新築住宅・非住宅で省エネ基準への適合が義務化されました。これにより、発泡ポリスチレン保温材の需要は一層高まっています。押出法ポリスチレンフォームの2030年度目標基準値は熱伝導率0.03036W/(m·K)と定められており、業界全体でさらなる高性能化が進んでいます。
省エネ対応が遅れると、施主からの工事やり直し要求や確認申請の不適合リスクにつながります。これは現場の大きな課題です。断熱材の選定・施工精度・廃材処理まで含めた総合的な品質管理が、今後の建築業務での競争力に直結すると言えるでしょう。
参考:2025年省エネ基準適合義務化の詳細解説(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/01.html
参考:ポリスチレンフォームの環境対応・リサイクル(デュポン・スタイロ社)
https://www.dupontstyro.co.jp/styrofoam/kankyo.html
「断熱材は一度施工したら終わり」と考えている建築業者は少なくありません。しかし実は、発泡ポリスチレン保温材の性能は施工後も条件次第で変化することがあります。
XPSに使われるフロン系発泡剤は、製造後に徐々にガスが抜けて空気に置き換わる「エージング」と呼ばれる現象があります。このため、初期の熱伝導率よりも経年後の熱伝導率の方が若干高くなるケースがあります。一方EPSは、製造直後に炭化水素系ガスが空気に置換される設計になっており、長期的な性能変化が小さいという特性があります。パイナルフォームなどのEPS製品では、約40年間、極寒地での性能低下がほぼ見られないという実績データも公開されています。これは見逃せない違いです。
この「長期性能の安定性」という視点は、設計段階での断熱厚さの計算に影響します。初期性能だけで断熱厚を設定すると、10年・20年後に設計基準を下回る性能になるリスクがあります。特に長期優良住宅や省エネ等級5以上を謳う物件では、設計段階から「20〜30年後の断熱性能」を見越した材料選定・厚さ設定を行うことが重要です。
さらに、地震による変形・脆化リスクも考慮すべきです。発泡ポリスチレンは剛性があり追従性がないため、地震の揺れで継ぎ目にひび割れや隙間が生じる可能性があります。耐震等級の高い建物であっても、断熱層の地震後チェックは怠れません。施工後の定期点検の仕組みを顧客に提案することが、長期的な信頼構築にもつながります。
🔑 長期性能維持のための設計・施工チェックポイント
- 初期性能だけでなく、長期熱伝導率(20〜30年後の推定値)を確認する
- 地震後に断熱層の継ぎ目・隙間の点検ができる納まりにしておく
- XPS使用時は「エージング後の熱伝導率」を設計値に反映させる
- 外張り断熱の場合、下地への固定方法も含めた長期耐久設計を行う
参考:断熱材の長期熱抵抗変化と促進試験法(建材試験センター)
https://www.jtccm.or.jp/sites/default/files/books_pdf/2025/Vol61%2CNo1-2%2C2025%E2%80%BB%E4%BD%8E%E8%A7%A3%E5%83%8F%E5%BA%A6%E7%89%88.pdf

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