

玉掛作業とは、クレーンを使用して荷物を運搬する際に、ワイヤーロープやチェーンなどの吊り具をクレーンフックに掛けたり外したりする作業を指します。この作業はクレーン作業において最も基本的かつ重要な工程であり、安全に荷物を吊り上げられるように荷物を固定する役割を担っています。玉掛け作業には、吊り具を使った一連の作業に加えて、クレーン運転者に合図を伝える動作も含まれます。
参考)https://www.cic-ct.co.jp/column/anzentamakake-column/anzentamakake-column-column01/
適切な玉掛け作業を行うためには、荷物の重心を正確に計算し、適切な道具を使って正しい位置や方法で固定する必要があります。もし適当な計算や正しく固定されていなければ、ワイヤーなどの固定具が外れて落下した際に、荷物に挟まれる危険や建造物などにも甚大な被害が及ぶ可能性があります。そのため、玉掛け作業は労働災害防止の観点から極めて重要な技能とされています。
参考)https://www.witc.co.jp/blog/blog-20220131/
玉掛け作業は建設現場での資材移動、製造工場での部品運搬、倉庫や物流センターでの荷物移動など、多岐にわたる現場で必要とされています。特に建設現場では、鉄骨や鋼材、コンクリート製品などの重量物を安全に運搬するために玉掛け作業が不可欠です。また、船舶や港湾での貨物の積み降ろし、鉄道や航空機の整備現場での部品移動、解体作業などでも頻繁に玉掛け作業が実施されています。
玉掛け作業の具体的な業務内容としては、まずクレーンを呼び寄せて荷の重心位置付近にフックを誘導し、荷に玉掛けワイヤーを掛けてフックへアイを掛けます。その後、微動巻上げによりワイヤーが緊張したら地切り直前で一旦停止し、ワイヤーの張り具合が均等かを確認します。この際、ワイヤーを直接手で触れず、手鉤を使用することが安全作業の基本です。作業中は常にクレーン運転者と合図を取り合い、安全確認を徹底する必要があります。
参考)https://www.kanekosangyo.co.jp/column/nurture/391/
玉掛け作業はクレーン作業と密接不可分な関係にあり、クレーンによる吊り上げ作業の成否を左右する重要な工程です。クレーンとは荷を動力を用いて吊り上げ、これを水平に運搬することを目的とした機械装置であり、玉掛け作業はこのクレーンの性能を最大限に活かすための前提作業となります。クレーン運転者と玉掛け作業者は常に連携を取りながら作業を進める必要があり、双方が合図の内容を正確に理解していることが求められます。
参考)https://www.moetama.biz/knowledge/basic/beginner/entry-137.html
玉掛け作業では吊り角度の管理が特に重要で、原則として90度以内、安全な吊り角度としては30度から60度以内が推奨されています。吊り角度が極端に狭すぎたり広すぎたりすると吊り具に過剰な負荷がかかり、労働安全衛生法第20条に基づく「安全管理義務」違反となる可能性があります。クレーンの種類によっても玉掛け方法が異なるため、使用するクレーンの特性を理解した上で適切な玉掛けを行うことが安全作業の鍵となります。
参考)https://cranenet.or.jp/susume/susume17_04.html
玉掛け作業で最も難易度が高いのが荷物の重心管理です。重心の位置を誤ると荷物が傾斜したり回転したりして、重大な事故につながる可能性があります。特に形状が不規則な荷物や、内部構造が見えない梱包された荷物では、経験に基づく目測と計算が重要になります。ベテランの玉掛け作業者は、荷物の外観から材質や内部構造を推測し、最適な玉掛け位置を瞬時に判断する技術を持っています。
参考)https://www.cic-ct.co.jp/column/tamakake-column/tamakake-column-column07/
重心管理のテクニックとしては、まず荷物の形状と材質から理論的な重心位置を推定し、次に玉掛け用ワイヤーを仮セットして地切り前に微調整を行います。また、雨天時など荷物表面が濡れている場合は摩擦力が低下するため、通常よりも慎重な重心確認と滑り止め措置が必要です。タワークレーンなどによる玉掛け作業では、重心の目印となる専用のターゲット表示を使用することで、より正確な位置決めが可能になります。重心管理は玉掛け作業の成否を決める最重要スキルの一つです。
参考)https://www.monotaro.com/g/01383174/
玉掛け作業に従事するためには、労働安全衛生法第61条、第76条で規定されている「玉掛け技能講習」または「玉掛け特別教育」を修了した国家資格が必要です。資格を取得せずに業務を行った作業者には労働安全衛生法61条違反として50万円以下の罰金が、資格を持たない者に作業をさせた事業者には6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。つり上げ荷重が1トン以上のクレーン等の玉掛け作業には玉掛け技能講習の修了が必須であり、1トン未満の場合は玉掛け特別教育で対応可能です。
玉掛け技能講習は都道府県の登録教習機関で実施され、保有資格や業務経験によって一部科目が免除される場合がありますが、標準では学科2日・実技1日の合計19時間の講習となります。学科では「クレーン等に関する知識」1時間、「力学に関する知識」3時間、「玉掛けの方法」7時間、「関係法令」1時間を学び、実技では「玉掛けの作業」6時間、「運転のための合図」1時間を習得します。費用は22,000円から26,000円程度で、学科・実技ともに修了試験がありますが、講習内容をしっかり理解していれば合格は難しくありません。
参考)https://arav.jp/column/slinging-operation-skill-training-course/
玉掛け作業に使用するワイヤーロープにはいくつかの種類があり、用途に応じて適切なものを選定する必要があります。代表的なワイヤーロープの構成として、6×19(旧3号)は素線がロープ軸にほぼ平行でキンクが発生しづらく型崩れも起こしにくい特徴があります。6×24(旧4号)は24本の素線を撚ったストランドが6本構成され、中心に繊維心が入っていて柔軟性に優れており、玉掛スリングに用いられます。6×37(旧6号)は37本の素線を撚ったストランドが6本構成で、玉掛や巻上げ索などに使用されています。
参考)https://tora-depo.com/blogs/tips/005
ワイヤーロープは「普通より」と「ラングより」の2種類に分類され、より方向によって特性が異なります。普通よりはロープのより方向とストランドのより方向が逆で安定性に優れており、ラングよりは同じ方向であるため柔軟性や耐摩耗性に優れますがよりが戻りやすいというデメリットがあります。玉掛け作業に使用できるワイヤーロープは、エンドレスまたは両端にフック、シャックル、リングまたはアイを備えたものでなければなりません。ワイヤーロープの種別については切断荷重のクラス別で、JIS規格ではE・G・A・Bの4種があり、使用目的に合った種類を選定することが経済性・寿命・安全性に大きく影響します。
参考)https://dougu-ya.com/apps/note/2020/11/08/%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%97%E3%81%AE%E7%A8%AE%E5%88%A5%E3%83%BB%E7%A8%AE%E9%A1%9E%E3%83%BB%E7%94%A8%E9%80%94/
玉掛け作業における安全対策として「333運動」が広く提唱されており、これは作業の危険性を減らすための重要な行動指針です。333運動の内容は、①吊り荷から3メートル以上離れる、②地切り30センチで一旦停止、③荷を吊り上げて3秒間停止する、という3つのルールで構成されています。吊り荷から3メートルという距離を確保することで、万が一の落下や振れによる激突から身を守る安全マージンを設けることができます。
参考)https://www.kanekosangyo.co.jp/column/nurture/541/
玉掛け作業の基本的な手順としては、まず合図により荷の重心位置付近にクレーンを誘導し、クレーンフックの位置を2方向から確認します。次に微動巻下げによりフックをアイ掛けのしやすい高さまで誘導し、荷に玉掛けワイヤーを掛けてフックの背側から順にアイを掛けます。ワイヤーを利かせる際は、微動巻上げによりワイヤーが緊張したら地切り直前で一旦停止し、ワイヤーの張り具合が均等かを確認します。この際、ワイヤーを直接手で握らず、手鉤を使用して安全を確保します。重心の目印とクレーンフックの位置を確認し、つり角度が30度から60度以内の安全な範囲が保たれていることを確認してから作業を進めます。
玉掛け作業を行う際は、クレーン運転士と玉掛け作業者の距離が近い場合には、手(または旗)と笛を使った合図を使ってクレーンを誘導します。合図にはさまざまな種類があり、クレーン運転士免許の資格試験や玉掛け特別教育、技能講習などで習得するのが一般的です。基本的な合図方法として、呼び出しは片手を上げて笛を長く一声吹き、位置の指示は指で方向を示し笛は不要です。巻き上げは片手を上に上げて輪をかくようにし、笛は短く二声、間を置いて繰り返します。
参考)https://www.sekoukyujin-yumeshin.com/learn/22985/
巻き下げは手のひらを下にして手を下に下げ、笛は短く三声、間を置いて繰り返します。ブーム上げは親指を立てて上げる動作で示します。手サインは玉掛けの合図の中で最も基本的な方法で、手を挙げて指示をしたり、親指と小指を使って合図をしたりと作業員同士やクレーンオペレーターとのコミュニケーションに活用されます。建物の外から中など、荷受け位置からは合図が見えない場合は、両側が見える位置に合図者を配置する必要があります。距離が離れている場合や視界が悪い環境では、無線機を使用した合図方法も採用されており、合図と操作がスムーズにいけば作業効率と安全性が大きく向上します。
参考)https://beherenow982.com/76/
玉掛用具は安全に使用できる状態にしておくために点検を怠ってはならず、日常点検と定期点検の2種類があります。日常点検は毎日作業前に行う点検で基本的に目視での確認、定期点検は使用頻度により毎月1回以上定期的に行う点検でノギスなどを使用して日常点検より細かく確認します。クレーン等安全規則第220条では、玉掛けの作業を行うときは、その日の作業を開始する前に当該ワイヤロープ等の異常の有無について点検を行わなければならないと定められています。
参考)https://www.taiyoseiki.co.jp/blog/13915/
点検項目としては、ワイヤーロープ1より間の素線の断線の有無を目視で調べ、ワイヤーロープの摩耗量をノギス等で調べ、キンクの有無を目視で調べます。この点検で玉掛け用具の異常が見つかったときはすぐに補修するか、廃棄基準に達している場合は廃棄する必要があります。実際に定期点検や作業前点検を行わなかったことで、H鋼を天井クレーンで吊り上げて移動中に玉掛け用ワイヤーロープが切断し荷が落下する事故が発生しています。玉掛け用具の点検基準を設け、特に定期的に点検を行った場合は、点検結果の適合標識として色つきビニールテープを巻いたりステッカーなどを貼りつけて記録を残すことが推奨されます。
参考)http://abeno-rope.com/tenken2.html
玉掛け作業における事故の多くは、玉掛け用具の点検不備、不適切な作業方法、安全教育の不徹底などの複合的要因により発生しています。代表的な事故事例として、重量約2.5トンの鋼管を2点つりで吊り上げ中に、鋼管がワイヤーロープから滑り落ちて作業員の右足首を直撃し複雑骨折により約3ヶ月入院したケースがあります。事故の原因は、鋼管表面が雨で濡れてワイヤーロープとの摩擦力が低下し、2点つりの玉掛け位置が重心から離れていたため吊り上げ時に鋼管が傾斜してロープから滑り落ちやすい状態となり、滑り止め措置も未実施だったことです。
別の事例では、倉庫内で重量約1.5トンの機械部品をロッキングフック付きワイヤロープで玉掛けして天井クレーンで吊り上げ中、高さ約4メートルで突然フックから荷が外れ、真下の作業者上に落下した事故も報告されています。これらの事故を防ぐためのポイントとして、荷物表面状態の確認と滑り止め措置、重心位置を考慮した玉掛け位置設定、天候条件を考慮した作業計画、合図者と受け取り作業者の安全配置が重要です。また、玉掛作業の安全に係るガイドラインを参考に、あらかじめ玉掛用具、玉掛け方法、作業者の退避位置、緊急時の対応などを定めた作業計画を作成し、関係労働者への周知を徹底することが事故防止の基本です。
参考)https://cranenet.or.jp/susume/susume17_03_old.html
玉掛け業務従事者安全衛生教育は、玉掛け資格を取得した人や安全教育を終了した経験者を対象に行う再教育です。目的は作業の危険性や器具の正しい取り扱い方などを再度勉強して労働災害をなくすことで、現在でも玉掛け作業に従事している人が対象となります。この教育は玉掛け技能講習を修了後、おおむね5年経過した方、また業務から一定期間離れ再び当該の業務に従事する方を対象として実施されます。
参考)https://www.kobelco-kyoshu.com/licenses/%E7%8E%89%E6%8E%9B%E3%81%91%E6%A5%AD%E5%8B%99%E5%BE%93%E6%A5%AD%E8%80%85%E5%AE%89%E5%85%A8%E8%A1%9B%E7%94%9F%E6%95%99%E8%82%B2/
危険な作業環境で働く労働者の安全確保と事故を未然に防ぐため、教育を一定期間ごとに実施することが法律で義務付けられています。建設現場での資材の移動、製造工場での部品の運搬、倉庫や物流センターでの荷物の移動、船舶や港湾での貨物の積み降ろし、鉄道や航空機の整備現場での部品の移動、解体作業など、これらの玉掛け作業に関わっている労働者は、危険リスクを理解した上で安全に作業することが求められます。玉掛け業務従事者安全衛生教育を受講することで、最新の安全基準や事故事例を学び、現場での安全意識を高めることができます。
厚生労働省が公開している「クレーン・玉掛け作業の安全衛生」では、無資格でクレーンの運転・玉掛け作業をしないこと、立入禁止区域やつり荷の動線に入らないこと、クレーンの動きに注意することなど、基本的な安全ポイントがまとめられています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/crane_00_Japanese_210210.pdf
厚生労働省「クレーン・玉掛け作業の安全衛生」では、玉掛け作業で気をつけたいポイントが図解付きで解説されており、現場教育に有効です
日本クレーン協会「玉掛けに関する知識」では、フック掛け方法や標準的な玉掛け方法について詳細な技術情報が提供されています
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