

計装士の資格がなくても計装工事の一部は施工できる、というのを知っていましたか?
「プロセス計装」という言葉は、建築業に携わっていると現場や設計図の中で目にすることがある一方で、体系的に学ぶ機会がないまま現場に出ているケースも少なくありません。まずは正確な定義から押さえておきましょう。
プロセス計装(英語:Process Instrumentation)とは、流体システム設備において温度・圧力・流量・水位(液位)などのプロセス量を計測し、必要に応じて制御を行うための設備・技術の総称です。日本機械学会(JSME)では「流体システム設備において温度、圧力、流量、水位等のプロセス量に関する計測および必要に応じて制御を行うための設備」と定義しています。
「計装」という言葉は「計器装備」を語源としており、計器(センサーや測定器)を設備に装備することを意味します。JIS(日本産業規格)では計装を「プロセスの状態を計測・記録し、それに基づいて制御・管理を行う技術の総称」と定義しています。
ここで重要なのは、「プロセス計装」と「計装」はほぼ同義で使われることが多いですが、プロセス計装は特に工業プロセスの流体制御に特化した概念である点です。建築設備の文脈では「計装工事=自動制御設備工事」と呼ばれることも多く、同じ技術体系が建物の空調・衛生・防災設備に適用されています。
つまり計装とは、測って、伝えて、制御することです。
人体に例えるなら、センサーは「目や皮膚」、信号線は「神経」、制御装置(DCSやPLC)は「脳」、調節弁やポンプは「手足」にあたります。この比喩を頭に置くと、プロセス計装の全体像がぐっと理解しやすくなります。
プロセス計装が最初に体系化されたのは、1920年代のアメリカの石油精製プロセスとされています。当時は機械式の調節計を現場に取り付けるだけの局所的なものでしたが、1970年代にマイクロプロセッサが登場すると、分散型制御システム(DCS)が誕生し、工場全体をデジタル管理できる時代へと進化しました。これが現代のプロセス計装の原型です。
参考:JIS・JSME・JEMIMA によるプロセス計測制御機器の技術定義
一般社団法人 日本電気計測器工業会(JEMIMA)|プロセス計測制御機器の技術解説
プロセス計装が実際にどのように機能するのかを理解するためには、「制御ループ」の概念を知ることが欠かせません。難しそうに聞こえますが、構造はシンプルです。
基本的な制御ループは以下の4つの要素で構成されます。
わかりやすい例で言うと、化学プラントのタンクで液温を80℃に保ちたい場合を考えます。温度センサーが現在の液温(例:72℃)を検出し、DCSに信号を送ります。DCSは「目標値80℃と現在値72℃の差が8℃ある」と判断し、スチームを送る調節弁をより開くよう指令を出します。温度が80℃に近づくと弁の開度を絞り、一定温度を維持します。これが1つの制御ループです。これが基本です。
実際のプラントや建築設備では、こうした制御ループが数十〜数百以上同時に動いています。建築設備でいえば、空調機の冷水温度制御や、ビル内の室圧管理、衛生設備の流量管理などがこれに相当します。東京ドームほどの規模の工場や精製プラントでは、1,000を超えるループが常時動いているケースも珍しくありません。
制御方式の代表として必ず登場するのが「PID制御」です。P(比例)、I(積分)、D(微分)の3つの演算を組み合わせたもので、目標値に素早く追従しながら安定を保つ制御方法です。世界中の工場・プラントで最も広く使われている制御アルゴリズムで、現代でも計装設計の中心に位置しています。
制御装置の種類についても整理しておきましょう。
| 種類 | 正式名称 | 特徴 |
|------|---------|------|
| DCS | 分散型制御システム(Distributed Control System) | 大規模プラント向け。数百〜数千ループを一元管理。信頼性・冗長性が高い |
| PLC | プログラマブルロジックコントローラ | 個別機器の高速シーケンス制御に強い。比較的小規模向け |
| SCADA | 監視制御データ取得システム | 広域の設備を遠隔監視・制御するためのシステム |
建築設備の計装では、ビルオートメーション(BAS/BMS)という形でこれらの技術が応用されており、空調・電気・照明・防災設備を統合的に監視・制御します。これは使えそうです。
参考:DCSとPLCの仕組みと違いを詳しく知りたい方へ
CCT株式会社 KOTO Online|DCS・PLC・SCADAの違いとは?制御管理システムを比較
建築業の現場でよく起きる混乱のひとつが、「計装工事」と「電気工事」の区別です。どちらも電気信号を扱い、配線作業が発生するため、境界線があいまいになりがちです。
結論から言うと、電気工事は「電力を供給するための工事」、計装工事は「設備を計測・制御するための工事」です。
| 比較項目 | 電気工事 | 計装工事(プロセス計装) |
|---|---|---|
| 主な目的 | 電力供給・電気設備の設置 | プロセスの計測・自動制御 |
| 扱う対象 | 照明・コンセント・動力設備・分電盤 | センサー・調節弁・DCS/PLC・制御盤 |
| 信号の種類 | 強電(AC100V〜6600V) | 弱電(4〜20mA DC、デジタル通信) |
| 主な資格 | 電気工事士(第一種・第二種) | 計装士(1級・2級) |
| 建築での呼称 | 電気設備工事 | 自動制御設備工事 |
建築業における計装工事は、「自動制御設備工事」という名称で建設業許可の電気工事業の中に含まれるケースが多いのが現状です。この点が計装工事を電気工事の一部と誤解させる原因にもなっています。
しかし実際の業務内容は明確に異なります。電気工事士が「電気を流す」ための施工を担うのに対し、計装技術者は「電気信号でどう制御するか」を設計・施工します。例えば、空調機への電源供給は電気工事の領域ですが、その空調機を室内温度に応じて自動でON/OFFしたり弁開度を調整したりする制御システムの構築は計装工事の領域です。
両者が密接に連携する工程も多いため、建築設備に携わる技術者は両方の知識を持つことで現場調整がスムーズになります。これが条件です。
特に注意が必要なのが、計装工事には電気工事士の資格だけでは対応できない設計・施工管理の範囲がある点です。計装設備の設計・施工管理を正式に行うには計装士資格が求められ、1級計装士を取得して1年以上の実務経験を積めば主任技術者として認められます。
参考:電気工事と計装工事の役割の違いを詳しく解説
石崎電気工業|計装工事と電気工事の違いを徹底解説|目的や役割比較で完全ガイド
プロセス計装の設計・施工に欠かせないのが「P&ID(ピーアンドアイディー)」という図面です。建築業の施工図や設備図に相当するものですが、その読み方を知らないまま現場に入ると作業の意味が理解できず、施工ミスにつながるリスクがあります。
P&IDとは Piping and Instrumentation Diagram(配管計装図) の略で、プラントや設備内の配管・機器・計装機器・制御の関係をすべて一枚の図面上に表現したものです。プロセス計装の設計における最も重要な基本図面で、以下の情報が含まれます。
例えば「TIC-101」という表記があれば、「ループ番号101番の温度制御ループ」を意味し、現場のどこにセンサーがあり、どの調節弁を操作するかが一目でわかる仕組みになっています。P&IDが読めるかどうかが基本です。
計装設計の全体的な流れは次の通りです。
建築設備の自動制御工事においても、この流れは基本的に同じです。施工管理者がP&IDや計装位置図を正確に読み取れると、工程調整や他職種との打ち合わせが格段にスムーズになります。
P&IDの読み方を学ぶ手がかりとして、プラント計装の専門的な講習も提供されています。
参考:P&IDの読み方と計装記号の解説
計装工事に特化した国家資格に準じる公的資格が「計装士」です。一般社団法人 日本計装工業会が認定する資格で、1級と2級の区分があります。
受験資格の条件を整理すると、次のようになります。
注目すべきは、学歴に関する制限が一切ない点です。高卒・専門卒・大卒問わず、実務経験年数さえ満たせば誰でも受験できます。建築業で施工経験を積みながらステップアップしやすい資格といえます。意外ですね。
合格率については次のような水準になっています。
| 区分 | 学科試験 | 実地試験 |
|------|---------|---------|
| 1級計装士 | 約60% | 約75% |
| 2級計装士 | 約65% | 約85% |
1級の学科試験は合格率が約60%と決して低くなく、建設系の他資格と比べると取り組みやすい水準です。例えば、一級建築士の合格率は約10%前後であることを考えると、その差は明らかです。
計装士の資格を保有することで得られる実務上のメリットは具体的に3点あります。
建築業の文脈では、特にビル管理・設備施工管理・EPC(設計・調達・施工)分野への転身やキャリア拡大に有効です。建築設備士と計装士を両方持つ技術者は市場価値が高く、設備工事のゼネコン・サブコンでも重宝されています。
計装士について詳しく知りたい方は、下記の日本計装工業会の公式情報を確認することをおすすめします。
参考:計装士資格の公式情報
プロセス計装の世界は、IoTやDX(デジタルトランスフォーメーション)の波によって急速に変化しています。建築設備に携わる技術者にとっても、この動向を把握しておくことは今後のキャリアに直結します。
従来のプロセス計装は、4〜20mA DCのアナログ電流信号を中心に動いていました。しかし現代では、HART通信・フィールドバス・WirelessHART・Industrial IoTなどのデジタル通信技術が普及し、センサー1台から得られる情報量が飛躍的に増えています。
例えば、スマート発信器(インテリジェントトランスミッター)では、測定値だけでなくセンサーの健全性情報・診断データ・設置情報なども同時に伝送できます。これにより、計器の異常を遠隔で事前に検知する「予知保全」が現実的になりました。これは使えそうです。
建築設備でも同様の変化が起きています。従来はビル竣工後に設備異常が起きてから対処する「事後保全」が主流でしたが、スマートビル化によってセンサーデータを常時クラウドに集めて異常を予測する「予知保全」型の建物管理が拡大中です。これにより、空調設備の突発故障によるテナントへのクレームや、修繕費の増加といった「見えないコスト」を削減できる可能性があります。
プラントエンジニアリング業界の国内市場規模は2025年時点で約3兆9,400億円と推計されており、2030年には4兆2,300億円規模に拡大すると予測されています(成長率約7.35%)。この成長の背景には、既存プラントの老朽化に伴うリニューアル需要と、省エネ・カーボンニュートラル対応のための設備高度化があります。この数字を頭に入れておけばOKです。
具体的な最新動向を3点まとめます。
建築業従事者にとって特に注目したいのが、建築設備のBAS(ビルオートメーションシステム)とプロセス計装の技術が融合しつつある点です。空調・電気・衛生・防災をまたがる統合的な制御システムの設計・施工ができる技術者は、今後ますます求められることになります。
参考:横河電機によるプロセス計装・DCS最新ソリューション
横河電機株式会社|統合生産制御システム(DCS)CENTUM VP