エポキシエステル塗料の特徴と防錆・施工の正しい知識

エポキシエステル塗料の特徴と防錆・施工の正しい知識

記事内に広告を含む場合があります。

エポキシエステル塗料の特徴と防錆・施工で使える知識

下塗り剤として問題なく使えるはずが、7日以内に上塗りしないと密着不良で塗り直しになります。


この記事でわかること
🔍
エポキシエステル塗料とは何か

エポキシ樹脂を脂肪酸でエステル化した1液型塗料。2液型エポキシとは根本的に異なる仕組みで乾燥・硬化する塗料です。

🛡️
防錆性能と適切な用途

高い付着性と防食性を持つ一方、屋外の仕上げ塗りには向かない理由と、正しい使い方を解説します。

⚠️
現場で失敗しないための施工ポイント

塗装間隔・素地調整・気温湿度など、現場でよくある失敗を防ぐための具体的な注意事項をまとめました。


エポキシエステル塗料とは何か:2液型エポキシとの根本的な違い

エポキシエステル塗料とは、エポキシ樹脂を不飽和脂肪酸(たとえばリノレイン酸など)でエステル化して作られた樹脂を使う塗料です。名前に「エポキシ」が含まれるため、現場では「2液型のエポキシ塗料と同じだろう」と思われがちですが、それは大きな誤解です。


通常の2液型エポキシ塗料は、主剤(エポキシ樹脂)と硬化剤アミンポリアミドなど)を使用直前に混ぜ合わせ、化学反応によって塗膜を形成します。一方でエポキシエステル塗料は、最初からエステル化処理が済んでいるため、硬化剤を混合する必要がありません。つまり1液型として使用できるのが最大の特徴です。


乾燥の仕組みも根本的に異なります。エポキシエステル塗料は、脂肪酸の分子が持つ二重結合(-C=C-)が空気中の酸素と反応して架橋(橋かけ結合)することで、塗膜が徐々に固まっていきます。この反応は「酸化重合」と呼ばれ、油変性アルキド樹脂(SOP系)の乾燥と非常によく似たメカニズムです。乾燥を促進するために、ドライヤーと呼ばれるナフテン酸コバルトやオクテン酸ジルコニウムといった金属脂肪酸塩が添加されています。


以下のように2種の塗料を整理しておくと、現場での選定ミスを防げます。


| 項目 | エポキシエステル塗料 | 2液型エポキシ塗料 |
|------|------|------|
| 液の種類 | 1液型 | 2液型(主剤+硬化剤) |
| 乾燥方式 | 酸化重合(空気中の酸素) | 化学反応硬化 |
| 作業性 | 高い(配合・攪拌不要) | 低い(混合比の管理が必要) |
| 防食性 | 良好 | 非常に高い |
| 塗膜硬度 | 中程度 | 非常に高い |
| 主な用途 | 鉄塔・鋼管・鋼構造物の下塗り | 床塗装・重防食・海洋構造物 |


つまり「1液で使える手軽なエポキシ系下塗り塗料」という位置づけが正確です。


塗料の種類について詳しくまとめられているミスミの技術情報ページも参考になります。


塗料の種類-4 エポキシ樹脂塗料|ミスミ技術情報


エポキシエステル塗料の防錆性能と建築・鋼構造物での使い方

エポキシエステル塗料が建築や土木の現場で長年使われてきた理由は、鉄鋼面に対する高い付着性と防食性にあります。エポキシ骨格が持つ極性官能基(-OH基)が金属表面のミクロな凹凸に入り込み、強固に密着する性質を持っているためです。この付着力は、一般的な油性錆止め塗料(SOP系)と比べると明らかに優れています。


具体的な使用現場としては次のようなものが挙げられます。


- 🗼 送電鉄塔・通信鉄塔:防錆性能が高く、現場塗装の作業性がいい1液型が重宝される
- 🏗️ 鋼管・鋼橋・鋼構造物:下塗りプライマーとして広く採用
- 🏭 工場・倉庫の鉄骨:新設・塗り替えどちらにも対応
- 🚢 船舶外板のプライマー:付着性と塩水への抵抗性が求められる用途


防錆顔料との組み合わせも重要なポイントです。かつてはクロム酸鉛系の防錆顔料が使われていましたが、現在は環境・健康への配慮から、リン酸亜鉛系・シアナミド亜鉛系・モリブデン酸亜鉛系などのノンクロム防錆顔料に移行が進んでいます。現場で購入する際は、製品規格表にある顔料の種類を必ず確認しましょう。


防錆塗装の選び方やJIS規格についての詳細は以下のコラムが参考になります。


防錆塗装とは?JIS規格や塗料の選び方について解説|富士商事


また、エポキシエステル塗料には「耐薬品性」の面でも強みがあります。アルカリ性・弱酸性の薬品に対して安定した塗膜を保てるため、コンクリート構造物の鉄骨部位など、アルカリ環境下での使用にも適しています。これは油変性アルキド樹脂(SOP)がアルカリに弱いのと対照的な特性であり、素地の化学的環境を考慮した塗料選定のポイントになります。


防錆効果が高い。ただし万能ではありません。


エポキシエステル塗料が「屋外仕上げ塗りに向かない」本当の理由

「エポキシ系なら丈夫だから、仕上げ塗りに使っても問題ないだろう」という判断は現場でよく見られますが、実はこれが大きな失敗につながります。エポキシ系塗料全般に共通する弱点として、紫外線に対する耐性の低さが挙げられます。


エポキシ樹脂のベンゼン環(芳香族構造)が紫外線を吸収して分解されやすいため、屋外で直射日光にさらされると数ヶ月単位でチョーキング現象(白亜化・粉化)が始まります。チョーキングとは、塗膜の表面が白く粉状になって手につく状態のことで、塗膜自体が劣化・消耗している証拠です。


エポキシエステル塗料も同様で、エポキシ骨格を含む以上、屋外の直接露出環境では耐候性が不足します。長野県工業技術総合センターが行った屋外暴露試験でも、エポキシ系樹脂塗料は暴露開始から比較的早い段階で白亜化が確認されており、紫外線による主鎖切断が塗膜厚の減少を招くと報告されています。


これが原則です。


- 🔵 下塗り(プライマー)として使う → ✅ 適切。上塗り塗料で紫外線から保護される
- 🔴 上塗り(仕上げ塗り)として屋外に使う → ❌ 不適切。チョーキングが早期に発生する


屋外の仕上げ塗りには、耐候性の高いウレタン樹脂塗料シリコン樹脂塗料フッ素樹脂塗料などをトップコートとして使用するのが基本です。建築現場での塗装系の組み合わせ(塗装仕様)では、「エポキシエステル下塗り→ウレタン上塗り」のような構成がよく採用されています。


エポキシ塗料の紫外線劣化と白亜化現象について詳しい解説があります。


白亜化(Chalking)の解説資料|日本ペイント株式会社(PDF)


なお、エポキシエステル塗料は二液型エポキシ塗料と比べると、脂肪酸を付加した構造ゆえに耐候性がやや改善されているという指摘もあります。しかしそれはあくまで「二液型エポキシ塗料よりは多少マシ」という相対的な話であり、屋外の仕上げ塗りに使えるほどの耐候性には達していません。この点を混同して使い方を誤ると、短期間での塗り替えコストが発生します。


エポキシエステル塗料の施工で失敗しない塗装間隔と素地調整のコツ

現場で最も多いトラブルのひとつが「塗装間隔(インターバル)の管理ミス」です。エポキシエステル塗料に限らず、エポキシ系の下塗り塗料全般に共通する重要な注意事項があります。それは「下塗りと上塗りの間には、適切な時間の範囲(最短〜最長)がある」ということです。


たとえば一般的な変性エポキシ系さび止め塗料の塗装間隔は、20℃の条件で「4〜5時間以上・7日(168時間)以内」と定められています。この「7日以内」という上限が重要です。エポキシ系塗料は酸化硬化が徐々に進行するため、7日を超えると塗膜表面が硬化しすぎて上塗り塗料との密着を妨げるようになります。


温度条件 指触乾燥時間 塗り重ね可能時間(最短) 塗り重ね上限
5〜10℃ 約2時間 5時間以上 7日以内
20℃ 約30分〜1時間 4〜5時間以上 7日以内
30℃ 約20〜30分 3〜4時間以上 7日以内


7日以内に上塗りできなかった場合は、軽いケレン(目荒らし)を行って塗膜表面に細かい傷をつけ、密着性を確保してから上塗りする対策が必要になります。これを怠ると、後から塗膜が剥離するリスクがあります。痛いですね。


塗装間隔の上限について詳しく解説されているページです。


エポキシ系錆止め塗料の塗り重ね可能時間についてのFAQ|ペイントシティ


次に素地調整(ケレン)についてです。どれだけ高性能な塗料を使っても、素地の処理が不十分だと数ヶ月で塗膜が剥がれてしまうことがあります。素地調整は塗装全体の品質を決める土台です。


エポキシエステル塗料を鉄鋼面に使用する際の素地調整のポイントをまとめます。


- 🔧 ケレンの種類:一般的には2種ケレン(電動工具による錆・旧塗膜の除去)が推奨。重腐食環境ではブラスト処理(1種ケレン)が理想
- 💧 油分・水分の除去:金属面の油分や水分は密着の大敵。シンナーウエスで脱脂してから塗装する
- 🌡️ 結露への注意:気温が5℃以下、または湿度85%以上の環境での塗装は避ける。塗膜の白化(ブラッシング)や密着不良の原因になる
- ⏱️ ブラスト後の塗装タイミング:ブラスト処理をした鉄鋼面は非常に錆びやすいため、処理後4時間以内(できれば2時間以内)に下塗りを行う


素地調整が重要なのは間違いありません。


エポキシエステル塗料は付着性が高い塗料ですが、それは適切な素地調整を前提とした話です。「付着性が高いから多少汚れていてもいい」という判断は禁物です。実際に、油分や旧塗膜の劣化部が残った状態で塗装した場合、最初はきれいに仕上がって見えても、半年〜1年後に広い範囲で塗膜が浮いてくる現象(剥離)が起こりやすくなります。


2液型エポキシとの使い分け:建築業従事者が知っておくべき独自視点

エポキシエステル塗料(1液型)と2液型エポキシ塗料は、「どちらを選ぶか」ではなく「それぞれの特性を正しく把握して使い分ける」という視点が重要です。現場ではしばしば「1液型の方が楽だから」という理由だけで選ばれることがありますが、これは誤った選定基準です。


建築業従事者の実務で使い分けの判断基準になるポイントを整理します。


🔵 エポキシエステル塗料(1液型)が向いている場面:


- 現場塗装が主体で、塗料の計量・混合作業が難しい状況(高所・鉄塔・配管など)
- 比較的小規模な鋼構造物や鉄部の下塗り
- 塗り直し・補修塗装で作業の柔軟性を確保したい場合
- 乾燥時間に余裕があり、可使時間(ポットライフ)の管理を省きたい場合


🔴 2液型エポキシ塗料が向いている場面:


- 高度な防食性・耐薬品性・耐水性が求められる重防食工事
- 床塗装・タンク内面・プールなど、長期にわたる水や薬品との接触が予想される箇所
- 塗膜厚を厚く確保したい場合(厚膜形2液型エポキシ塗料の使用)
- 海洋環境・臨海工業地帯など、腐食環境が非常に過酷な現場


この使い分けを誤ると、コスト面と性能面の両方で損失が生じます。たとえば重防食が必要な海洋鋼構造物に1液型エポキシエステル塗料だけで下塗りした場合、早期に防食機能が失われてしまいます。逆に、軽量の屋内鉄骨に高価な2液型エポキシを使うと、施工コストが過剰になります。これは使えそうな情報ですね。


さらに注目すべき点があります。エポキシエステル塗料は、同じ「1液型」の変性エポキシ系さび止め塗料と混同されることがあります。変性エポキシ系さび止め塗料の多くは、湿気硬化型や弱溶剤型の変性エポキシ樹脂を使用するもので、エポキシエステル樹脂とは分子構造が異なります。それぞれの製品仕様書(TDS:Technical Data Sheet)の「樹脂の種類」欄を確認することで、正確に判別できます。現場での塗料選定の際は、製品名や外観だけで判断せず、必ずTDSを確認する習慣をつけることが大切です。


エポキシ樹脂塗料の種類と変性タイプの違いについて詳しい情報があります。


変性エポキシ樹脂塗料とは?エポキシ塗料との違いも解説|平成工業


エポキシエステル塗料の正しい保管方法と廃棄・VOC対策

建築業に従事する方が意外と見落としがちなのが、塗料の保管・廃棄・揮発性有機化合物(VOC)に関するルールです。エポキシエステル塗料は1液型とはいえ有機溶剤を含んでいるものが多く、取り扱いには注意が必要です。


まず保管面についてです。エポキシエステル塗料は酸化重合によって硬化するため、缶を開封すると空気中の酸素と少しずつ反応し始めます。開封後の缶は蓋をしっかり閉め、直射日光・高温多湿を避けて保管することが基本です。長期間保管すると缶の内部でスキニング(表面に皮膜が形成される現象)が起こりやすいため、使用前に必ずかき混ぜて均一な状態にしてから使います。スキニングした塗料をそのまま塗ると、異物が混入して仕上がりが荒れる原因になります。


揮発性有機化合物(VOC)についても触れておきます。有機溶剤型のエポキシエステル塗料には、キシレントルエン・ミネラルスピリットなどの溶剤が含まれています。作業中は以下の点に注意が必要です。


- 🌬️ 換気の確保:密閉された室内や地下、タンク内部での作業では強制換気が必須
- 😷 保護具の着用:有機溶剤用防毒マスク・化学防護手袋・保護眼鏡を使用する
- 🚭 火気の禁止:引火点が低い溶剤を含む製品では、塗装中および乾燥中の火気厳禁
- 🗑️ 廃棄方法:使用後の塗料缶や塗料残材は産業廃棄物として適切に処理する


近年では環境規制の強化(大気汚染防止法のVOC規制など)に伴い、弱溶剤型(ターペン可溶型)や水性型のエポキシエステル系塗料の開発も進んでいます。ターペン可溶型は従来のキシレン系に比べてVOC排出量が少なく、臭気も抑えられているため、住宅密集地や屋内施設での塗装作業における環境負荷を低減できます。


廃棄については産業廃棄物の管理が適切かどうかが問われる場面もあります。


また塗料の廃棄は一般ゴミとして捨てることはできません。固化剤を使って固めるか、産業廃棄物の収集運搬業者に依頼して適切に処理する必要があります。現場での塗料管理は、品質管理だけでなく法令遵守の観点からも重要なポイントです。


エポキシ樹脂塗料全般の特性・安全対策について詳しい情報があります。


変性エポキシ樹脂塗料の概要|大日本塗料株式会社