酢酸ナトリウム水酸化ナトリウムの性質と反応メカニズム

酢酸ナトリウム水酸化ナトリウムの性質と反応メカニズム

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酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの基礎知識

この記事で分かること
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化学的性質の違い

酢酸ナトリウムは弱酸と強塩基からなる塩、水酸化ナトリウムは強アルカリ性物質という根本的な違いを理解

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反応メカニズム

加水分解によるpH変化、メタン生成反応など、両物質が関わる化学反応の詳細を解説

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建築現場での応用

コンクリート劣化との関連、建材への影響、適切な保管方法など実務に役立つ知識

酢酸ナトリウムの化学的性質と溶液の挙動

 

 

 

酢酸ナトリウム(CH₃COONa)は、酢酸(弱酸)と水酸化ナトリウム(強塩基)の中和反応によって生成される塩です。無水物と三水和物の2つの形態が存在し、どちらも無色の結晶として存在します。水への溶解度が非常に高く、20℃では水100mLあたり123.3gが溶解する特性を持っています。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%85%A2%E9%85%B8%E3%83%8A%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0

この物質が水に溶解すると、完全に電離して酢酸イオン(CH₃COO⁻)とナトリウムイオン(Na⁺)に分かれます。しかし酢酸は弱酸であるため、酢酸イオンは水中で安定せず、水分子からH⁺を奪って酢酸に戻ろうとする性質があります。この過程で水酸化物イオン(OH⁻)が生成されるため、酢酸ナトリウム水溶液は弱アルカリ性を示すのです。
参考)https://www.try-it.jp/chapters-9481/sections-9529/lessons-9555/

水溶液中での具体的な反応式は「CH₃COO⁻ + H₂O ⇄ CH₃COOH + OH⁻」となり、この現象を塩の加水分解と呼びます。加水分解によって生じたOH⁻イオンの濃度が、溶液のpHを決定する重要な要因となります。食品添加物や緩衝液の成分として広く使用されており、比較的安全性の高い化学物質として知られています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3771004/

水酸化ナトリウムの強アルカリ性と反応性

水酸化ナトリウム(NaOH)は、ナトリウムイオンと水酸化物イオンからなるイオン結晶で、苛性ソーダとも呼ばれる工業的に重要な基礎化学品です。水に溶解すると完全に電離してNa⁺とOH⁻に分かれ、強アルカリ性を示します。電離度が非常に高いため、水溶液中ではほぼ完全にイオンの状態で存在するのが特徴です。
参考)https://www.wdb.com/kenq/dictionary/hydrolysis

この物質は劇物に指定されており、皮膚やタンパク質を激しく侵す危険性があります。特に目に入ると失明の恐れがあるため、取り扱いには細心の注意が必要です。空気中の二酸化炭素を吸収する性質があり、ガラスを侵す特性も持っているため、保管には密閉容器とゴム栓の使用が推奨されます。
参考)https://ga40077.com/concrete-diagnosis/sodium-hydroxide

産業用途としては、製紙業でのパルプ製造、石油精製、繊維製造、石鹸製造など多岐にわたります。建設分野では、コンクリート中の水酸化カルシウムと関連して、アルカリシリカ反応などのコンクリート劣化現象に関与することがあります。水酸化ナトリウムを含む溶液は、強いpH変化を引き起こすため、中和滴定の標準溶液としても頻繁に使用されます。
参考)https://www.nupals.ac.jp/n-navi/wp/wp-content/themes/new-n-navi/img/page/admission/file_form/ad_form014-2022.pdf

酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムによるメタン生成反応

酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの固体を混合して加熱すると、メタン(CH₄)と炭酸ナトリウム(Na₂CO₃)が生成される特徴的な反応が起こります。この反応は高校化学でメタンの実験室的製法として教えられており、反応式は「CH₃COONa + NaOH → CH₄ + Na₂CO₃」と表されます。
参考)https://www.try-it.jp/chapters-9788/sections-9832/lessons-9841/point-2/

この反応では固体同士の反応であるため、十分な接触と反応速度を得るために加熱が必要となります。通常、酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムを乳鉢で混合し、試験管に入れて加熱する方法が採用されます。メタンは常温で気体であり、無色無臭の可燃性ガスとして発生するため、水上置換法で捕集することが可能です。
参考)https://www.try-it.jp/chapters-9788/sections-9832/lessons-9841/practice-3/
​youtube​
反応メカニズムとしては、水酸化物イオン(OH⁻)が酢酸イオン(CH₃COO⁻)のカルボキシル基を攻撃し、脱炭酸反応を経てメタンが生成されると考えられています。この反応は一般に、カルボン酸塩と強塩基の固体を加熱すると対応するアルカンが得られるデカルボキシル化反応の一例です。
参考)https://manabu-chemistry.com/archives/%E9%85%A2%E9%85%B8%E3%83%8A%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0%E3%81%AB%E6%B0%B4%E9%85%B8%E5%8C%96%E3%83%8A%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0%E3%82%92%E5%8A%A0%E3%81%88%E3%81%A6%E7%86%B1%E3%81%99.html

興味深いことに、酢酸カルシウムを加熱した場合は、異なる反応が起こりアセトンが生成されます。酢酸イオン同士が反応する場合と、水酸化物イオンと反応する場合では、生成物が変わるという化学的な特性があるのです。このメタン生成反応は、有機化学における炭素数を減らす反応として、理論的にも実用的にも重要な位置づけにあります。
参考)https://www.toray-sf.or.jp/awards/education/pdf/h30_06.pdf

酢酸ナトリウム水溶液の加水分解とpH計算

酢酸ナトリウムは弱酸と強塩基からなる塩であり、水に溶かすと加水分解によって水溶液が塩基性を示します。この現象は中和滴定において、酢酸と水酸化ナトリウムの中和点が塩基性側にずれる理由でもあります。
参考)http://www.jukenmemo.com/chemistry/theory/hydrolysis/

加水分解の平衡式「CH₃COO⁻ + H₂O ⇄ CH₃COOH + OH⁻」において、加水分解定数Khは「Kh = [CH₃COOH][OH⁻] / [CH₃COO⁻]」と表されます。この平衡定数は、酢酸の電離定数Ka(約1.8×10⁻⁵)と水のイオン積Kw(1.0×10⁻¹⁴)を用いて、Kh = Kw / Kaの関係式で求められます。
参考)https://www.ps.toyaku.ac.jp/~yanagida/bunsekiPDFs/4th1013.pdf

例えば0.05 mol/Lの酢酸ナトリウム水溶液のpHを計算する場合、近似計算により[OH⁻]を求め、pOHを経由してpHを算出します。実際の計算では、加水分解の程度が小さいという近似を用いることで、比較的簡単にpH値を推定できます。一般的に、0.1 mol/L程度の酢酸ナトリウム水溶液はpH 9前後の弱アルカリ性を示します。​
中和滴定曲線を見ると、酢酸と水酸化ナトリウムの中和点はpH約8.7付近にあり、この点で溶液には酢酸ナトリウムのみが存在します。中和点前後で水酸化ナトリウム水溶液をわずかに加えるだけでpHが6から12へと急激にジャンプする現象が観察されます。これは緩衝作用が失われ、過剰の強塩基によって溶液が強アルカリ性になるためです。
参考)http://kinki.chemistry.or.jp/pre/a-372.html
​youtube​

酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの建築・不動産分野での関連性

建築・不動産分野において、水酸化ナトリウムを含むアルカリ性物質は、コンクリート構造物の劣化に関わる重要な要素となります。コンクリート中には水酸化カルシウムが含まれており、これが水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ性溶液と反応すると、アルカリシリカ反応(ASR)を引き起こす可能性があります。
参考)http://www.hokushin-k.com/yougojiten.html

アルカリシリカ反応とは、コンクリートに含まれるアルカリ性溶液と特定の骨材(シリカ鉱物など)が化学反応を起こし、生成物が膨張することでコンクリートにひび割れや劣化をもたらす現象です。この反応を抑制するためには、高炉スラグを多量に混合したセメントを使用することが効果的とされています。水酸化ナトリウムとシリカの反応では、ケイ酸ナトリウム(水ガラス)が生成される場合もあります。
参考)https://www.nippon-chem.co.jp/dcms_media/other/cre2003-4.pdf

一方、ケイ酸ナトリウム(珪酸ソーダ)自体は、建材分野で有用な材料として活用されています。コンクリートの強度向上や多孔性の低減、土壌安定化に貢献する性質があり、石膏ボードやプラスチック材の粘結材、耐火モルタルや耐酸モルタルの成分として使用されます。また、軟弱地盤の改良を目的とした薬液注入工法や、シールド工法の裏込め材としても重要な役割を果たしています。
参考)https://www.nbinno.com/jp/article/dyes/keisan-na-toriumu-konkurito-taikyuusei-kensetsu

建材の保管・管理においては、水酸化ナトリウムのような劇物は施錠して保管し、廃棄時には都道府県知事の許可を受けた専門業者に委託する必要があります。また、ガラス容器での長期保存は避け、ポリ容器を使用することが推奨されます。酢酸ナトリウムは比較的安全性が高いものの、化学物質としての適切な取り扱いが求められます。
参考)https://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/j-scie/jikken/pdf/1_005.pdf

建築資材における用途地域規制や特定用途制限地域では、住居系地域での工場や化学物質を扱う施設の立地が制限される場合があります。振動・臭気・排煙・騒音などにより周辺住民の生活環境に影響を与える恐れがある施設は、一般居住地区では立地不可とされることが多く、化学薬品の保管・取り扱いには地域の都市計画上の配慮も必要です。
参考)https://www.city.sanuki.kagawa.jp/wp-content/uploads/2023/04/r50601specific_use_restricted_area03.pdf

酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの安全な取り扱いと保管方法

水酸化ナトリウムは劇物に指定されており、取り扱いには特別な注意が必要です。皮膚に付着すると激しく侵されるため、作業時は必ず保護手袋と安全めがねを着用します。万が一皮膚に付着した場合は、直ちに多量の水で洗い流した後、1%酢酸またはホウ酸水溶液で中和し、再度水で洗浄します。目に入った場合は、すぐに多量の水で十分に洗眼し、速やかに医師の診断を受ける必要があります。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1310-73-2.html

保管方法については、水酸化ナトリウムは空気中の二酸化炭素を吸収する性質があるため、密閉容器を使用することが基本です。ガラス製容器のすりあわせ栓は、水酸化ナトリウムがガラスを侵して開かなくなる恐れがあるため、ゴム栓を使用します。長期保存の場合は、ガラス瓶ではなくポリ容器を使用することが推奨されます。直射日光や高温を避け、冷暗所での保管が望ましいとされています。
参考)https://www.saga-ed.jp/kenkyu/kenkyu_chousa/r2/02_rika/2_yakuhin.pdf

酢酸ナトリウムは水酸化ナトリウムと比較すると安全性が高い物質ですが、化学薬品としての基本的な取り扱いルールは守る必要があります。三水和物は120℃から250℃で加熱すると無水物になるため、保管環境の温度管理にも配慮が求められます。風解性や潮解性を持つ物質は気密容器に入れ、容器内外の気体の出入りを遮断することが重要です。​
化学物質の廃棄については、内容物と容器を都道府県知事の許可を受けた専門の廃棄物処理業者に業務委託する必要があります。特に水酸化ナトリウムのような劇物は、環境への影響を考慮した適切な廃棄処理が法律で義務付けられています。飲食物の容器に毒物劇物を移し替えることは絶対に避け、容器や保管設備の破損がないか定期的に確認します。運搬時はしっかりと固定し、漏洩や破損を防ぐための措置を講じることが必要です。
参考)https://www.pref.kyoto.jp/yakumu/toriatukai.html

酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムを用いた中和滴定の実際

酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムは、中和滴定の分野で密接に関係しています。食酢中の酢酸濃度を測定する実験では、水酸化ナトリウム水溶液を用いた中和滴定が行われ、反応式「CH₃COOH + NaOH → CH₃COONa + H₂O」に従って酢酸ナトリウムと水が生成されます。​
中和滴定曲線の特徴として、0.100 mol/Lの酢酸水溶液10 mLを0.100 mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定すると、滴定量が10 mLに達する前後でpHが6から12へと急激に変動します。この急激な変動ポイントが中和点に対応しており、中和点のpHは約8.7となります。中和点が中性(pH 7)ではなく塩基性側にずれるのは、生成した酢酸ナトリウムの加水分解によるものです。
参考)https://sd2fb4c67ecbb9cc1.jimcontent.com/download/version/1724029442/module/12521708198/name/p082-093_07_%E4%B8%AD%E5%92%8C%E3%81%A8%E5%A1%A9.pdf

指示薬としては、この急激なpH変動域(pH 6〜12)に変色域を持つフェノールフタレインが適しています。フェノールフタレインは酸性溶液で無色透明、アルカリ溶液で赤紫色(濃い桃色)を示し、pH 8以上で赤色が濃くなる性質があります。中和点を見極めることにより、試料溶液中の酢酸濃度を正確に算出することが可能となります。​
滴定操作では、ビュレットから水酸化ナトリウム水溶液を徐々に加えながら、溶液の色の変化を観察します。中和点直前では緩衝作用により、大量の水酸化ナトリウムを加えてもpHはあまり変化しませんが、中和点を超えると過剰の強塩基によって急激にpHが上昇します。この滴定技術は、食品分析や品質管理において重要な分析手法として広く活用されています。youtube​
参考)https://www.tachibana-u.ac.jp/admission/pdf/24-i-kagaku.pdf

📊 中和滴定の重要ポイント

項目 内容
反応式 CH₃COOH + NaOH → CH₃COONa + H₂O
中和点のpH 約8.7(塩基性)
適した指示薬 フェノールフタレイン
pH急変範囲 6〜12
中和点が塩基性の理由 酢酸ナトリウムの加水分解

酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの工業的製造と用途

酢酸ナトリウムの工業的製法は、酢酸と水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムを中和させることで三水和物を得て、これを120℃から250℃で加熱して無水物を製造する方法が一般的です。この物質は食品添加物として広く使用されており、pH調整剤や保存料、調味料として食品業界で重要な役割を果たしています。​
医療分野では、酢酸ナトリウムは炭酸水素ナトリウムの代替品として検討されています。2012年に炭酸水素ナトリウムがFDA(アメリカ食品医薬品局)の医薬品不足リストに掲載された際、多くの病院薬局や毒物管理センターが酢酸ナトリウムを代替治療法として提案しました。酢酸ナトリウムは透析液のバッファー成分としても使用され、病的な酸血症の治療に応用されています。​
水酸化ナトリウムは、製紙業でのパルプ製造、石油精製、繊維製造、石鹸製造など、極めて広範な産業分野で基礎化学品として利用されています。特に製紙工業では、木材からセルロース繊維を取り出すためのパルプ化工程で不可欠な薬品です。化学工業では、様々な有機合成反応における塩基触媒や中和剤として重要な位置を占めています。
参考)https://ja.wikibooks.org/wiki/%E9%AB%98%E6%A0%A1%E5%8C%96%E5%AD%A6_%E5%85%B8%E5%9E%8B%E9%87%91%E5%B1%9E

環境技術分野では、水酸化ナトリウムは排水処理や排ガス処理における中和剤として活用されます。酸性排水を中和してpHを調整したり、酸性ガスを吸収除去したりする用途で使用されています。また、食品業界では、こんにゃく製造や中華麺の製造において、アルカリ剤として添加されることもあります。​
🏭 主な工業用途の比較

物質名 主な用途 特徴
酢酸ナトリウム 食品添加物、医療用緩衝剤、透析液 比較的安全性が高い
水酸化ナトリウム パルプ製造、石鹸製造、化学合成 強アルカリ性、劇物指定
両物質の反応生成物 メタン製造、中和滴定 化学教育での重要な実験

中和滴定の詳細な実験方法については、新潟薬科大学の「中和滴定による食酢中の酢酸濃度測定」の資料が参考になります。フェノールフタレインの使用方法や滴定曲線の読み取り方が詳しく解説されています。
セメント協会の「セメントとは」のページでは、建築・土木分野でのセメントやコンクリートの基礎知識が解説されており、アルカリ性物質とコンクリートの関係を理解する上で有用な情報が提供されています。

 

 

 

 


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